さぐりがき

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白くて小さくて儚くて、強い。『ENDER LILIES: Quietus of the Knights』レビュー

今回は『エンダーリリーズ』をレビュー。ジャンルは2DアクションRPG。EDまでのクリア時間は23時間8分42秒。トロコンまで23時間40分。

本作は2D形式のメトロイドヴァニアだ。記憶を無くした白き巫女は黒衣の剣士とともに穢者(けもの)と呼ばれる者達を浄化しながら世界を探索していく。

ゲーム概要

本作はこの手のメトロイドヴァニアとしてはだいぶオーソドックスな作りだ。攻撃スキルを使用するとスキルに応じて様々な従者が少女の代わりに戦ってくれる演出こそ目を引くが他にシステム面で変わったところは存在せず、ゲーム序盤からあと一歩届かない足場や深く潜ってみたくなる水辺、取ってみろよと言わんばかりの宝箱がマップの随所に散りばめられており、ボスを倒し二段ジャンプや水中移動など新能力が手に入るたび後戻りして探索を徐々に広げるジャンル特有の楽しさはしっかりと再現されている。セーブポイントで休憩するとスキルや回復が補充されるが倒した雑魚敵も復活するという仕様もそのままだ。

道中の雑魚敵においても回復のリソースを誤るとすぐ死ぬバランスだが厳しいと呼ぶほどではない。ちなみに攻撃は建物の壁や床を貫通するので二階にいる敵を一階からジャンプ攻撃で安全に倒す、なんてこともできる。個人的にこういうちょっと卑怯な安全策というか正攻法だけどちょっとズルい戦いが好きなので、こうした姑息な戦法を実践できるのはありがたかった。

アイテムを全て取得したエリアはマップの色が変わりこれ以上探索する必要がないと一目で分かる作りなのも気が利いている。付け替え自由な戦闘スキルの成長にはマップの各地に散らばるアイテムを使用するので熟練度上げのような作業感と無縁なのも嬉しいところだ。

ボス戦の難易度はそこそこ高め。気を抜いて勝てるほど甘くはないが、コントローラーを投げ出すほど理不尽ではないしっかりと手ごたえを感じられるバランスに仕上がっている。手数で攻める剣がダメならスタン値の高い大槌で攻めるかはたまた遠距離魔法をするもよし、強力な地上攻撃が襲ってくるなら空中戦に切り替えるもよし、数度のリトライを繰り返しつつ多彩なサブスキルと組み合わせて自分なりの解を見出す戦いは程よい達成感を与えてくれた。ボスが使ってくる技の種類は一形態ごとに3種類程度と覚えやすく思いの外遊びやすかったおかげかもしれない。回避が優秀なおかげでパリィをまるで使わずともクリアできたし、必殺技発動時の無敵時間を利用して悠々回避が出来たりと意外と猶予を持たせた調整なので世界観ほどの重々しさは難易度からは感じられなかった。

ひとつ残念な点としてボス戦開始時の演出が地味に長く攻撃してもダメージを与えられない時間が存在するのは不恰好。さあこれからボスと戦うぞ、という意気込みそのままに攻撃したら無敵時間で受け付けないのはだいぶ焦ったい調整だ。

少女を取り巻く世界は優しい

さて「本作の特徴は何か?」と聞かれたらまず間違いなく雰囲気が良いと答えるだろう。天気はいつでも曇りか雨模様、日の差さぬ生者のいない退廃的な世界で時に幻想的に時におどろおどろしい背景は綺麗だし、清廉な歌声が流れるBGMは主人公リリィが歌っていると錯覚してしまうような出来栄えだ。全体的に怖さと可愛さを両立させたホラー絵本のようなアートのおかげで程よい緊張感を持って探索できたし、主人公リリィのモーションも凝っており回避する際は両手バンザイからヘッドスライディングといういかにも戦い慣れてないのが伝わってくる動きをしてくれる。かわいい。

とはいえ。だからといって本作を雰囲気が良いから遊んでみてよ、と人に勧めるかと聞かれたら答えはNoだ。おそらく「丁寧に作られたメトロイドヴァニアだから遊んでみなよ」という当たり障りのない物言いになると思う。というのもこの世界観自体どっかで見たような既視感が強めで今更人に勧めるものでもないと感じるからだ。ボスを倒すと生前の悲劇的なバックボーンがムービーで流れるのもありがちで見応えは薄く、あくまで言葉にすれば雰囲気が良いと呼べるが突出してるほどではないとでも言えるかもしれない。雰囲気を守るため喧しくなるのを防ぐためボイスが無いのには賛成だが、どうしても寂しさはつきまとう。

探索要素においても一見行き止まりの壁に擬態した黒いモヤモヤを暴き出すものが大半で単調さを感じる作りなのが惜しい。注意深く目を凝らさないと分かりづらいので見当違いの壁に武器を振って突進を繰り返してしまうのは面白みがないし、苦労して見つけた報酬がスキル成長の経験値と物語の理解を深めるtipsなのもだいぶアッサリしている。

本作は良くも悪くもこうしたありがちな世界観やヒネリの薄い探索要素、シンプルなバトルで構成されており、特に序盤のステージは横方向に長い割りに敵が少なくギミック少なめで単調なせいもあってかゲーム序盤は楽しさを見出しづらい作りであることは否めないだろう。

しかし、なんだかんだ最後トロコンするまでしっかり遊び尽くしたのには訳がある。実は本作は死んでもセーブ地点に戻るだけ、いわゆるデスペナルティが無い作りになっているのだ。道中死んでセーブポイントから復活してもそれまで蓄えた経験値は失われないし、ショートカットスイッチを起動直後に死んでも再度やり直す必要は無い。このモノトーンで薄暗い世界観ならもう少し難易度を上げても不思議でないものだが、この遊びやすさに舵を切った思い切った調整のおかげで死んでもついつい再挑戦して長々と遊んでしまった。

序盤こそマップは凡庸だが、3人ほどボスを倒し中盤の城攻略にもなると手狭なマップで矢継ぎ早に襲ってくる敵達をいなしつつ、上下左右を忙しく行き来してショトカ開通するそれまでになかった小刻みな達成感の連続で次第に楽しくなってくる。デスペナが無いといっても決してヌルい訳ではなく、後半になればなるほど毒沼や毒ガスといった嫌らしいギミックが増えてくるのでバランスも取れている。

そしてリリィを守る従者達は次第に成長していき最終的にはボスの中でラスボスが一番弱かったと思えるほど強くなる。高難度のゲームにしては拍子抜けするほどアッサリした結末だが、それもこれも全て最後まで楽しんでもらいたいという開発の心意気から来る設計なのは明白だろう。一見厳しいように見えて最後まで少女を取り巻く世界は慈愛に満ちていたという調整こそ、物語と併せて本作を象徴する優しさなのかもしれない。

まとめ

丁寧に作られた良作。絵本のようなアートは目を引くしデスペナルティが無いのは遊びやすいのだが、他にシステム的な特徴は無いのでよく言えば手堅い、悪く言えば強みが薄いといったところ。まあ低価格であることを踏まえれば充分満足できる範囲だ。

高難易度をうたいつつも遊びやすさにしっかりと軸足を残し最後まで遊ばせることを目的とした調整は見事。メトロイドヴァニアの入門編というには少し難易度が高いかもしれないが、そう呼びたくなるほど丁寧さに満ちたバランスの取れた一作だ。

以上、読んで頂きありがとうございました。