さぐりがき

据置ゲーの情熱を取り戻したい男のブログ

静寂が響き渡る。『THE QUIET MAN』レビュー

f:id:sinodakei:20210720220905j:plain 今回はクワイエットマン』をレビュー。販売スクエニで開発はヒューマンヘッドスタジオ。ジャンルはアクションアドベンチャー。難易度マイルドで一周クリアまでに3時間ほどかかったが、大手スクエニから発売されたとは思えないほど挑戦的なタイトルだった。たまにはこういうのもいいね。

ゲーム概要

f:id:sinodakei:20210720201212j:plain f:id:sinodakei:20210720201209j:plain 本作は実写ムービーパートとCG戦闘パートを交互に進めていくADVとなっているが、物語の理解に不可欠な台詞という、字幕という文字、心情を表す音楽といった情報の大部分が開示されない。登場人物たちが喋った台詞はやたら形容しづらい高音の効果音として表現されるため、基本的に表情を読み取ることで物語を推測していく。タイトルのクワイエットマンから想像できる通りプレイヤーは耳が聞こえない主人公を追体験するような形でゲームを進めていくのだ。情報の多くが伏せられているので正しくは耳が不自由かどうかも分からないのだが。

f:id:sinodakei:20210720201242j:plain f:id:sinodakei:20210720201344j:plain f:id:sinodakei:20210720201437j:plain f:id:sinodakei:20210720201339j:plain 物語は宵闇を歩く一人の男の後ろ姿から始まる。 主人公の金髪の男性は当初名前も目的も明かされないが、どうやら独特な封蝋のマークを手がかりに仮面の男を探し出し敵討ちを企てているらしい。ヒロインや仲間たちと交流しながら少しずつ元凶を探し出していくのだが、物語を進めるたび回想パートが挟まれ段々と過去が明らかになるので台詞はなくとも登場人物たちが主人公とどんな関係性なのかは推測しやすい。現在と過去、時系列が混じり合うことで気を持たせる作りは存外魅せ方が上手でなかなかに引き込まれる力強さがある。

f:id:sinodakei:20210720212816j:plain f:id:sinodakei:20210720212810j:plain f:id:sinodakei:20210720212813j:plain 何より実写映像の映画のような臨場感が見るものの目を惹きつける。

耳が不自由といっても全くの無音ではなく、歩けば地面を踏みしめる足音が自身の体内に反響するかのようなくぐもった音として伝わるし、緊張が高まれば心拍の鼓動は早くなり、音楽というほどでもないにしろBGMも存在している。この僅かな音の存在が映像を観ながら物語を推察するのに丁度良いバランスで、時折休憩を挟みつつも適度な集中力を保ちながら物語を最後まで楽しむことができた。

戦闘

f:id:sinodakei:20210720201539j:plain f:id:sinodakei:20210720201536j:plain 主人公の行く先々には敵が待ち構えており、そんな時はCGで作られた戦闘パートに切り替わる。見応えある実写からあからさまなCGに唐突に切り替わるのはガッカリ感が強いものの、パンチやキック、スウェーバックといった肉弾戦を駆使して軽快なコンボを決めるのは意外にも楽しい。ガードを崩せばバリンッてガラスが割れたような音が鳴るのは気持ちいいし、敵を倒すと時折過去の映像がフラッシュバックして画面に映り込むのは見応えある表現だ。画面上にUIは一切表示されず敵味方の体力等が分からないのも徹底している。敵が跪いたらパンチ立ち上がったらキックの連続で永パ決められるので楽勝じゃんと思いきや、物語後半ではしっかり対策してくる念の入れようだ。

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とっても簡素な操作説明。
しかし物語全編を通しても敵の種類は両手……へたしたら片手で数えられるレベルでバリエーションは少ない。なので物語が進むほど数の暴力で押してくるのは正直鬱陶しくてダルいし、戦闘回数も後半になればなるほど多くなるのでめんどくさい。しかも操作説明ですら文字でなく絵なので慣れるまでは意外なほどに苦戦する。この曖昧な仕様のおかげで筆者は一定ダメージを受けるか与えるとL2ボタンで必殺技を発動できることに長らく気付かず、終盤大量の敵に何度も殺されストレスMAXになってからコレなんか見落としてるぞとようやく気が付いた。撤退した情報の削ぎ落としは見事で納得できるが悔しい!気付かなかった自分の迂闊さが悔しい!もっと早く色々試せばよかった。

物語も大詰めになると戦闘スタイルが一変しギャンギャン動き回って攻撃できるのは爽快だが、シンプルゆえに融通が効かず難易度も意外と高めというADVのオマケ的立ち位置にしては案外場所を取る戦闘システムといった印象だ。

f:id:sinodakei:20210720201735j:plain f:id:sinodakei:20210720213125j:plain このように物語の実写パート・戦闘のCGパートが交差しながら物語は進んでいくが、この2つは厳密に分けられておらず後半へ行けば行くほどCGによるカットシーンが多用される作りなのが惜しい。豪華な実写パートなら台詞が分からずとも絵力で引きつける力強さがあるが、CGカットシーンだと引力は弱めで台詞が聞こえない退屈さが勝ってしまう。陰影が深ければ時に実写と見間違えるほどのCGだが明るい場面だと作りの粗さが目立つし、ヒロインの顔は実写とCGで別人レベルに異なっているのでトーンダウンしてしまう。CGのアクションシーンは緩急のついたカメラワークで意外なほどケレン味が効いてて楽しめるのだが、もう少し実写の割合を増やしたほうがさらに楽しめたように思う。

本作は一周約3時間という短さで割とすぐに終わってしまうのだが、大方の予想通り物語の締めくくりにはガッツリと主題歌が流れ出す。この演出がシンプルに良い!これまで音らしい音が入ってこなかった時間を長く経験したからこそ曲そのものが深く沁み渡り、世界が華やぐ感覚に浸れるのはベタながら心地よい演出だ。歌詞と物語が密接にリンクした作りで曲そのもののクオリティも高い。

種明かし

f:id:sinodakei:20210720202003j:plain そして二周目ではなんとアンサー編として台詞・字幕・音楽が解禁される。ひぐらし*1で例えるなら一周目が出題編で二周目が解答編のような作りだ。登場人物の名前から物語後半で生じた捻った事柄の数々まで諸々の種明かしとなっており、このギミックこそ本作を本作たらしめる特徴といえよう。

二周した感想としては面白かったかなと思う。二周しても未解決の謎が多いのは正直少々の肩透かしを感じたが、元々一周目で多くの情報を廃してプレイヤーに委ねていることを踏まえれば伝えることより感じることを重視した作りなのは明白だ。そもそも情報を秘匿された一周目で表情だけを見て色々推測する珍しい楽しみ方が出来ただけでも遊んだ価値があるってもんだろう。一周目と二周目でシーンの印象が変わるギミックもちゃんと見られるし、物語自体はしっかりと完結し登場人物の感情の起伏が追いやすいのも良かった。全く同じ戦闘を繰り返すのは面倒でスキップモードがほしかったが、一周目とは比べものにならないほど上手に敵を倒せて上達ぶりを感じられたのも楽しかった。

二周しても計6時間というボリュームの少なさは少し気にかかるがこれ以上長くても一周目の集中が続かなかっただろうし妥当なところ。とはいえこれだけ凝った作りなのでメイキング映像はほしかった!まぁ筆者はセールで396円で購入したのでだいぶ評価が甘くなってる自覚はあるが、値段以上に楽しめたのは間違いないだろう。

f:id:sinodakei:20210720201630j:plain 以上、読んで頂きありがとうございました。