さぐりがき

据置ゲーの情熱を取り戻したい男のブログ

化膿した現実も夢幻の快楽も余さず飲み干してくれ。『カリギュラ オーバードーズ』レビュー

f:id:sinodakei:20210710065424j:plain 今回はカリギュラ オーバードーズをレビュー。ジャンルはRPGで販売フリュー、開発ヒストリア。難易度ノーマルでEDをふたつ見るまでのクリア時間は22時間18分。オリジナルであるVITA版未プレイかつアニメも未視聴だ。

実は筆者は本作を発売日に購入したものの過去に2度挫折しており今回が3度目のリベンジ戦となる。とにかく戦闘が合わなくて序盤で挫折したのだが、一部に熱狂的なファンを持ち続編が発売されるほどのシナリオの評価の高さはずっと気になっていて今回ようやくクリアまで漕ぎつけたというわけだ。

果たしてその深淵には何が隠されていたのか。早速レビューしていこう。

あらすじ

f:id:sinodakei:20210710065453j:plain 自我を持つボーカロイドであるμ(ミュウ)は現実世界で悩み苦しむ人達のため高校を中心とした巨大な街並み、通称メビウスと呼ばれる仮想世界を作った。そこは年齢や性別すら超えて理想の容姿をした高校生として生きられる現実の痛みとは無縁の理想郷──のはずだった。いつしか行き過ぎた思想は甘美な毒となり、現実の記憶を忘れ前途洋々な学生生活を死ぬまでループし続ける緩やかな滅びの場へと変貌していった。

そんな中この世界が虚構だと気付いた者達がいた。主人公であるあなたは同じく現実の存在に気付いた仲間達と共に帰宅部として活動し、もうひとりの歌姫アリアによって顕現した異能カタルシス・エフェクトを駆使して現実へ帰還する手段を模索し始める。

あなたが選ぶのは虚構か、現実か。

ゲームの概要

本作は世界的にも評価の高いペルソナシリーズを明確に意識して作られた学園ジュヴナイルRPGで、製作スタッフには女神転生シリーズなどの楽曲を手掛けた増子津可燦氏やペルソナ1、2で知られる里見正氏がシナリオを担当するなどアトラスにゆかりある人物が名を連ねる。早い話がペルソナフォロワーな作りだ。 f:id:sinodakei:20210710080438j:plain しかし本家にはいささか及ばないホコロビが各所に目立つ。元が携帯機だからしょうがないとはいえ(UE4のライティングや水の表現はさておき)グラフィックは最低限のレベルで、まばたき口パクすらしない3DモデルはPS2と見紛うほどだ。バストアップ絵があるにも関わらずなぜか貧弱な3Dモデルを大写しした人形劇演出が多用されるため違和感も強い。特に序盤の見せ場であるカタルシス・エフェクトに開眼する場面はその激情ぶりに反して盛り上がりがあまり伝わってこないイマイチな出来。これなら立ち絵をメインとする演出にしたほうが良かったのでは?というか今どき立ち絵が動きの一切ない一枚絵なのは流石にさみしいよ。 f:id:sinodakei:20210711060906j:plain f:id:sinodakei:20210710080436j:plain 物語の舞台は架空の閉鎖空間であり、ADVパートを行う部室以外はほぼ敵の出現するダンジョンで構成されている。遊ぶ前にペルソナめいた中身を想像していた身からすると街中を自由に駆け回れずミニゲームすらないのはメリハリに欠けるというか、閉鎖空間だからしょうがないとはいえ少々息が詰まる印象。ペルソナのあの街並みやミニゲーム、分厚いADVパートはゲームとして抑揚をつけるため・気分転換のためにあるのだということが今回よく理解できた。

ともあれ、グラの貧弱さと街がない点に関しては慣れてくると「まぁそんなもんか」と軽く思えるくらいには落ち着いた。だって元は携帯機だし。あくまで最初に感じたガッカリ感がそこそこ強かったという話なので軽く聞き流してくれれば幸いだ。 f:id:sinodakei:20210712112015j:plain しかし街がないこと自体は構わないのだが、それに付随する問題点としてRPGの醍醐味のひとつ装備を新調する楽しさがないのは少し引っかかった。街がないということはつまり店も無い。本作にはショップや所持金の概念は存在せず、敵からドロップするスティグマと呼ばれる装備品を入手してそのつど戦力を更新していく。このダンジョンに延々潜ってとりあえずステの高いスティグマに付け替えるだけという一貫した流れはどうにも単調で遊ばされている感を強く覚える。

劇中では普通に店があり金銭のやり取りも行われている描写が多々あるだけに、店を使えないのは少々さみしくないかい?

ダンジョン

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この赤い点全部敵。
本作のダンジョンはとにかくシンボルエンカウントが多い。右を向いても左を向いても敵だらけ。ゲームを進めるうち毎回真面目に戦うのが自然と嫌になってくるので、戦闘はサボっていいものだと早々に気付けるかが本作のモチベーションを長続きさせるコツ。筆者はいつしか華麗なコーナーリングでスルッと敵を出し抜いて回避するのが当たり前になっていた。無視しようにも道幅は狭く強制戦闘を避けられない場面も多いがそこは気合と根性でなんとかしろ!とにかく逃げて、逃げて、逃げまくれ! 逃げ続けるのも意外と楽しいぞ。

目的地には!マークが表示されるので迷うことも悩むことも殆ど無く、マップのギミックも単純でせいぜいスイッチを押すと遠くの扉が開く程度。レバーを動かすと2つある通路が切り替わるとか、ワープポイントが随所に敷かれ今どこにいるのか分からないといった嫌らしいギミックも何ひとつない。THE・シンプルisシンプル。しかし後述するように戦闘が面倒でダンジョンに長居したくなかったので探索がいの無さは逆にありがたかった。 f:id:sinodakei:20210712112032j:plain 楽曲にやたらと力が入っておりダンジョンには個別のテーマ曲が設定されている。戦闘に突入するとインストゥルメンタルだったフィールド曲がシームレスにボーカル入りのバトル曲に遷移するのはなかなかにイカした演出だ。初めて見た時は「結構イイんじゃね」と膝を打つようなインパクトを覚えたが、その衝撃も長くは続かなかった。基本フィールド曲にボーカルが乗っかっただけでメロディは変化しないため、ひとつのダンジョンの中で延々ループするメロディを聞くのは思った以上に疲弊する。長時間聴いているとダンジョンの単調さと相まって段々嫌気がさしてくる。この音楽は敵が流しており延々聞かせることで大衆を洗脳しているという設定なのだがホントにプレイヤーにダメージ与えてどうすんねん。あくまで演出の範囲に留めろ演出に。

曲自体は良曲揃いで歌詞も敵の心情を表している凝った作りなだけに、ボタンの掛け違いのような演出のズレが悔やまれる。

戦闘

f:id:sinodakei:20210711211703j:plain 戦闘システムの大枠は4人パーティのコマンドバトル制で位置取りや時間の概念といったシミュレーション要素も含まれている。中でも特徴的なのはイマジナリーチェインと呼ばれるシステムで、画面上に可視化された敵味方の行動予測を元に行動順をミリ単位で微調整しつつ、仲間と最適な攻撃を組み合わせる連携が鍵となる。

しかしシューティングやラッシュ、ガードといった敵の行動タイミングに合わせて特攻スキルをぶち込むだけという単純な構図に変わりはなく、ゲーム終盤になっても序盤と大して変わらない戦闘を強いられるので何の面白みもない。空中に浮かせたりダウンといった体勢を崩す要素もあるが、それも状況に合わせた特効スキルを当てればいいだけで似たようなもの。1ターンにつき1人最大3回まで行動可能で選択肢は膨大とはいえ、あまりに根っこの仕組みが単純すぎる。出来ることならゲームにありがちな地水火風のような属性や、せっかくキャラごとに武器が異なるのだから打斬突といった三すくみが存在してもよかったはずだ。

欠点はこれだけではなく、悲しいことに本作の戦闘には更なる問題がある。

とにかくテンポがめちゃくちゃ悪い!

冒頭にも書いた通り筆者が過去に二度ギブアップしたのはこれが理由。三度目の挑戦にしてようやくクリア出来たのは感無量と感じるほどにnot for meな作りだった。 f:id:sinodakei:20210712100408j:plain イマジナリーチェインで垣間見る映像は必ず起こる未来視ではない。全ての攻撃が100%命中するポジティブシンキング全開な予想の空想視であり、実際の戦闘では攻撃をミスして思い通りの展開になるほうが稀だ。通常攻撃の命中率は最大でも心許ない95%*1で酷い時には70%台まで落ち込むので、連続攻撃可能なシステムが仇となって「また連続で外してんなコイツ…」と悪い印象を抱きやすいのが徒労感に拍車をかける。 攻撃をミスするのはそれだけでストレスなのだ。

敵が一体なら10秒足らずでサクッと雑魚戦は終わるのだが、雑魚が複数だったりボス戦だと途端に不確定要素が増え嫌でも戦闘が長引いてしまう。最大3回×4人で12回ものコマンド選択は多すぎるし、味方の攻撃が一度でも外れればミリ単位でチマチマ行動順を練った連携も全て台無しになるので水を差された感が強く、正直真面目に考えるのが馬鹿らしい戦闘システムとさえいえる。何より最善手を選ぼうとすると頻繁に空想視とコマンド選択を往復して選び直すのがとにかく煩雑で面倒くさい。攻撃後に生じた棒立ちの隙をただ眺める時間が多いのもあくびが出るほど退屈だ。

煩わしい。

面白いつまらないを論じるより先にこの感想がどうしても先立つ。戦闘システムの考案者は足し算ばかりで引き算を知らないのかと感じてしまったほどにゴタついた作りだ。そもそも100点の理想の戦い方を構築したあとプレイヤーの預かり知らぬ不確定要素で理不尽に減点されていくという、減点方式を前提とするシステムに一体どれほどの魅力があるというのだろう。これでは劣勢を覆す逆転のカタルシスなど到底感じられない構造だ。意欲的であることは評価したいがまずは引き算を覚えろ引き算を。 f:id:sinodakei:20210713082954j:plain しかしこの煩雑な戦闘システムに対し難易度ノーマルなら脳死で勝てるくらい調整はガバガバ。システムが合わなかった筆者にとって戦闘にかける時間が短くて済むガバ調整はせめてもの救いであったものの、同時に開発者に対してシステムを考えただけで力尽きたかのような調整放棄に近いなげやり感を覚えたのも事実。底の浅さを悟られないためにあえてヌルく調整したんじゃないかと勘繰ってしまうほどだ。これだけめんどくせー戦闘作ったなら頼むから最後まで徹底してくれよ。味方の体力はゲーム開始時から3桁で早々に4桁に突入し細かい数字のやりとりに一喜一憂するコマンドRPGの醍醐味も欠けているし、味方の攻撃範囲は狭いのに敵が繰り出す自らを中心とした衝撃波やレーザーといった雑な範囲攻撃はアンフェアで首を傾げたくなる。

シンボルエンカウントの多さもあって慣れてくると戦闘にいちいち時間かけてらんねぇよと仲間操作はオート、主人公は通常攻撃連打に落ち着いてしまった。それでも敵は開幕ガードで遅延行為をしてくるからたまったものではないのだが。仲間AIも補助スキルや必殺技を使わないためあまり賢くなく、これなら普通のコマンドバトルかアクションにした方がよっぽどマシだったろう。普通にPTのレベルを上げるだけでは全然スキルポイントが貰えないのも不親切。『歯応えが無いのが嫌なら難易度を上げればいいのでは?』というお叱りの声を受けそうだが、筆者が嫌なのは煩雑さと歯応えの無さ、数値にすると8:2なのでわざわざ難易度上げて更に面倒にしたくはないのです。

ここまで不満点をつらつら書いたが、戦闘システムは結局個人の好みによるところが大きいので他人に理解してほしいとも思わない。しかしこれだけは分かってほしいと願うポイントがひとつだけある。
戦闘終了時にフィニッシュムーブをスローモーションで見せつけられるのめちゃくちゃ焦ったい。
戦闘が終わるたび逐一緩慢な動きを見せつけられ著しくテンポを阻害している。正直こればっかりは看過できないというか、多分これさえ無ければもっと戦闘楽しめたと思う。戦闘の倍速・4倍速機能があれば全く異なった体験ができただろうしそれだけが心残りだ。無念。

合わなかった箇所ばかり述べるのもアレなので良いところを言うと、戦闘時の掛け合いボイスが豊富でおそらく2人1組の仲間同士の掛け合いが全員分と+αが膨大に存在する。そのおかげで共闘感にあふれている点は評価したい。

トラウマクエス

f:id:sinodakei:20210712095927j:plain フィールド上には敵の他に多数のモブキャラが闊歩しており話しかけることで共闘やトラウマクエスが行える。このサブクエ、昨今発売されたゲームとは思えぬほどめちゃくちゃ面倒。

まずキャラに3回話しかけ友好度を友達まで上げる必要があるが、一度話しかける度にいちいちピロンと好感度上昇の演出が流れ暗転を挟むのでこの時点で既に時間がかかる。そしてプロフィールを見てエストの中身を確認し、達成できそうならまた話しかけて悩みを聞くを選択。スティグマを装備して解決するならパーティに加えたあと大量の装備からお目当てのものをスクロールし装備してようやく解決となる。一番簡単であろうクエストですらこの流れで、酷いものだと複数回戦闘したり特定の人物のいる場所に連れて行く必要があり更なる時間がかかる。とにかく受注から解決までの流れが地獄のようにめんどくさい。 f:id:sinodakei:20210712095803j:plainエスト総数は500人以上でそもそも目当ての人物を探し出す最初の段階から既にめんどくさい。もはやトラウマクエストがトラウマになるレベル。500種以上という桁外れのクエスト数から見ても『やってもやらなくても良いやり込み要素』として位置付けられているのは明らかだが、クリアしないとパッシブスキルを取得不可で戦力に影響が出てくるのが厄介。数多くの人間関係や一人一人名前が異なる作り込みの凄さは伝わるものの、それら全てを不意にするほどの面倒臭さのせいで諸々が台無しになっている。ホントなんでこんな仕様にしたのか理解に苦しむよ。

幸いにもパッシブスキルとトロフィーを諦めれば完全に無視できる要素なのが救いか。結局筆者がクリアした時キャラが装備していたパッシブスキルは2つだけだった。

シナリオ

f:id:sinodakei:20210713083021j:plain 自らのいる場所が虚構だと気付いた帰宅部の面々は現実に帰るため、μの元に集いメビウスに居続けることを選択したオスティナートの楽士を倒していく……というのが物語のおおまかな流れだ。主人公は部長として仲間たちを引っ張っていく。

登場人物たちのデザインは皆ある程度フィクションのキャラクターとしての属性を保ちつつ現実にいてもおかしくない範疇に収まっており、全体的に色素が薄くどこか病的で不安定さを窺わせる。でも俺はこういうの好き。どのキャラも怪訝な表情になると目元がちょっと暗くなりクマが深くなるのだが、こうしたネガティブな顔つきが多用されるRPGというのは割と珍しい部類だと思う。 f:id:sinodakei:20210712094422j:plain さて、本作の大きな特徴としてメビウスでの外見は自分が望む理想の姿であり、現実と異なる可能性がある』という点が挙げられる。例えばこの篠原美笛ちゃん。彼女はいつも快活で人あたりも良く元気印な人格者。ゲーム序盤からノリが良く分かりやすい愛嬌が魅力的だ。多分帰宅部じゃなけりゃ普通に運動部でいい汗流すのが似合うよなって感じのキャラ……って言おうとしたら元バレー部だってプロフに書いてありました。とにかく序盤からハツラツとした可愛さが目立つキャラだ。 f:id:sinodakei:20210712064128j:plain しかしそんな彼女も太った人間を見ると露骨に嫌悪感を示しだす。それまでの彼女の姿からは考えられない醜悪な表情で罵詈雑言の嵐をぶつける姿はインパクト大!その態度はどこか同族嫌悪じみた排斥の仕方でどうやら彼女のリアルの体型と深く関係しているという予測が成り立つ。どうでしょう、彼女の裏には何があるか気になってきませんか?

このように仮想空間だからこそ分からない相手の本当の姿、本音と建前のギャップを紐解くことが本作の醍醐味であり、登場人物たちの核心に迫る物語はペルソナのコミュに相当するキャラクターシナリオを読み進めることで解放されていく。メインシナリオとキャラクターシナリオ、物語はふたつの軸で展開されていく訳だ。 f:id:sinodakei:20210713083053p:plain f:id:sinodakei:20210713083049j:plain 女性キャラクターが皆かわいいのも特長で、周りと上手く溶け込むことが出来ず思い悩む神楽鈴奈に筋金入りの男性嫌い天本彩声、ネットジャンキーの守田鳴子など多くのヒロインが登場するのでギャルゲー的な楽しみ方もできる。抱える悩みは人それぞれで人生を捻じ曲げるほどのトラウマ級のものもあれば、そんなことで悩んでるのかと言いたくなるものまで悩みの種類が豊富なのがまたリアル。悩みとは人と比べるものではなく当事者自身の問題だと理解しているからこその描き方だろう。 f:id:sinodakei:20210717061730j:plain 柏葉琴乃はアニメのメインヒロイン然とした容姿端麗才色兼備で一見おしとやかな印象を受けるが、その中身は意外なほど勝ち気で時に見せる達観した態度も印象的だ。実は彼女にはとある秘密があるのだがネタバレになるので悔しいが割愛する。この秘密、すげぇ人に言いたくなる中身で妙に生々しさを伴った設定と併せて殴りかかってくるのは人によっては意外なほどダメージを負うと思う。例えるなら強めのジャブ。多分この子の正体が一番意外性あるよね。 f:id:sinodakei:20210713084027j:plain f:id:sinodakei:20210713084029j:plain 男連中も個性的で帰宅部の発起人である佐竹笙悟はいつも冷静で一本筋の通った無頼漢かと思いきや一人のときにみせるやたら頼りない姿には親近感が湧くし、チュートリアルのボスで楽士として戦ったあと早々に帰宅部に寝返る響鍵介はどこか物事を冷めた目で見る現代的な若者だ。理知的なメガネキャラと思わせといて女子部員の胸を盗み見て叱られる男子学生にありがちな失敗は多くの男性プレイヤーの共感を呼ぶことだろう。どうか彼を責めないでやってくれ。 f:id:sinodakei:20210713152320j:plain 完全版で追加された人物のひとり琵琶坂永至はITベンチャー社長を自称する聡明な男だが歯に絹着せぬ物言いで辛口なスパイスとして機能しており帰宅部の輪を乱すこともしばしば。特に楽士に対する当たりが強く考えられないほどブチ切れたり、本作を象徴するキャラクターといってもいいほど熱のこもった言動の数々は必見だ。 f:id:sinodakei:20210713084133p:plain キャラクターシナリオの後半になると心の奥に踏み込むか選択肢が表れる。こんなの踏み込む一択で選択肢にもなってねーよとは思うが演出としてはアリだろう。余談だがキャラクターシナリオは時限要素であり好感度が足りずモタモタしていると最後まで進められないのは不親切。無条件で全部見れてもよかったと思う。

加えて完全版の本作ではオリジナル版には存在しなかった敵側の視点が追加されている。 f:id:sinodakei:20210710055859j:plain ゲーム序盤に敵側のリーダーであるソーンから帰宅部側だけじゃなく楽士側の事情を見てから判断しても遅くはない。」至極もっともな正論を言われ、オリジナル版のシナリオである帰宅部ルートと新規に追加された楽士ルートのどちらに進むか選択するのだ。オリジナル版未プレイならまず楽士ルートを選んでしまうような問いかけなので筆者は迷わず楽士ルートを選んだが、正直前作プレイ済か事前情報を知らないと少々分かりづらい選択肢ではあるのは確かでもっと噛み砕いた説明がほしかったように思う。どうやら楽士ルート=帰宅部ルート+αであり、オリジナル版の帰宅部シナリオの合間に新規の楽土シナリオが挟み込まれる形らしい。なので楽士ルートしかやらなくても問題ないらしく結局一周しか遊びませんでした。 f:id:sinodakei:20210713083130j:plain こうしてプレイヤーは帰宅部のリーダーとして活動するかたわら、正体不明の楽士Lucid(ルシード)として帰宅部と対決するというやたら混み入った立場として物語は進んでいき、最終的に帰宅部を裏切るか否か選択を迫られることになる。この裏切りの選択自体は事前情報で明かされているのでとりわけ驚きもない。Lucidとして行動するのはあくまでオマケ的な扱いでダンジョンは探索済みのものを再利用、共闘する楽士の性能は帰宅部コンパチの安価な作りだが、むしろ最終的に裏切ると分かっているからこそ俯瞰で楽しむ面白さが生まれている。感覚的には裏切るというより見定めるといった方が正しいか。 f:id:sinodakei:20210713083344j:plain f:id:sinodakei:20210713083347j:plain 楽士たちとも交流でき、温泉イベで覗きを繰り返すstorkは単なるコメディリリーフと思いきや彼自身の生い立ちに深く根ざした問題を抱えているし、ゆめかわいいを掲げるスイートPは容姿に反して意外なほど世話焼き。彼らも中身は帰宅部と同じ普通の人間で少し考えが違うだけ。立場が異なるから対立を生むこと以上に、人生が異なるから立場を生むのだと思わせられる。理想を模した世界であるがゆえ浮き彫りになる現実との落差に苦しみつつも、開き直って虚構を選択した彼らのほうが自分に素直で親しみやすく、ギャグ色も強めで裏切りに説得力を持たせる配慮が見てとれる。下手すりゃ帰宅部よりも結束力が強いんじゃないかと思えるほど和気あいあいとした姿は帰宅部にひけをとらない愛着が湧いた。 f:id:sinodakei:20210717002134j:plain メインシナリオでは割とギスギスした展開に陥ることも多い。この手の物語のお約束として案の定犯人探し帰宅部内で始まるのだが、自分が裏切り者だとバレやしないか固唾を飲んで見守るのは冷や冷やしたスリルがある一方「実は俺が裏切り者なんだよね」とか「今ここで俺が裏切り者だと手を挙げたら皆どんな反応するんだろーな」とか決して口には出せない悪魔的思考を頭の片隅に置いて右往左往する仲間たちを眺めるのは愉しい。時として疑心暗鬼に陥り仲間同士で醜く面罵しあう姿なんか最高の酒の肴そのもので「オイオイこいつら仲間割れ始めちゃったよおォ〜馬鹿だね〜犯人俺なのに」とこぼれる笑みを必死に隠しながら見届ける行為は裏切り者だけが味わえる愉悦の時間といえよう。皆も体験してみるがいいさ。このとき初めて探偵ものの犯人の気持ちが心の底から理解できた気がする!コナン君いなくて助かった〜。

ふたつのエンディング

f:id:sinodakei:20210714150017j:plain 筆者は最初に帰宅部エンドを迎えたが、まず遊び終わったあと感じたのは弱者に寄り添う物語だということだ。

正直シナリオ前半は量産型ラノベ的な描き方の匂いが強く、散りばめられたネットパロもよくある雑なお遊びにしか見えずイマイチ。しかし注意深く観察するとちょっとした言動の端々から戦闘ボイスに至るまで丁寧に伏線が張られており、あれこれリアルの姿を推察する楽しみがある。そして中盤以降ゴゴゴゴッと物語が動き出し、トリッキーな見た目に反して込められたメッセージは現実ってクソだけど目を背けてばかりじゃいられないという前向きで希望あふれるものになっている。

帰宅部は皆自分を虚飾し守ることに精一杯。しかし頑なに己の弱さと向き合うことを諦めず克服しようとする姿には多分誰もがほんの少しの勇気を貰えることだろう。



一方、裏切った瞬間はどうだったか?



もの凄く気持ち良かった。

最初は帰宅部エンドを見たあと楽士エンド見りゃいいべと割とテキトーな気持ちで考えており実際にそうしたのだが、両陣営を反復横跳びするシナリオの魅せ方もあってそこまで感情移入できないのではと当時は疑っていた。

しかしこればっかりは実際に裏切ってみないと分からない。

おそらく自分含めて殆どの人が人生において消極的裏切りならまだしもここまでの悪意を持った積極的裏切りをした経験ってほぼ無いじゃないですか。それを一瞬でも擬似的に体験できたのが一番の収穫かな。
これまで一途に帰宅部たちと向き合ってきたからこそ生まれた絆、全幅の信頼を寄せられていると知っているからこそ容易く踏みにじるのがこんなにも気持ちいいものだったとは!実際に遊ぶことでしか得られないものってやっぱりありますよね。軽く性癖の扉が開いた気がする。

多分ゲームの中身を何も知らずこの文章を読んでる人は俺のことを情緒不安定じゃないかと疑ってるかもだけど違うから!俺全然正常だから!帰宅部の行動に勇気づけられたことそれを裏切る快感に酔いしれること両立するから!だってEDが違うんだもの感想も違う、当たり前の話じゃないですか。どっちが上とかいう話でもないですし。こんなもんですよ。うん。

付け加えると裏切りといってもほんのちょっとEDが変わる程度でインパクトこそ大きいが同時に肩透かし感も強い。あくまで本編は帰宅部エンド、裏切りはオマケ要素だと思っていたほうがいいかもしれない。

ほかに気になった点

セーブの際、毎回本編データとシステムデータを二度記録するので時間がかかる。

アニメの質が悪い。

マップ上で使用しないボタンが多く持て余し気味。ワンボタンで装備画面くらい開けてもいいだろう。マップの階層切り替え無し会話のバックログなしでUIが物足りない。

戦闘時敵味方を選択する際カーソルがマップ上にしか表示されないので混戦になると誰を指しているか分からなくなる。画面右下のステータスバーにもカーソル表示がほしかった。

キャラクターシナリオで選択肢を間違えるとスキルポイント消費するペナルティが邪魔。そもそもリセットすりゃいいだけの話なので選択肢の当たり外れ自体機能していない。

キャラゲー的な素養を多く含んでいるのでシリアスな本編一辺倒で終わってしまうのは寂しい。楽士帰宅部全員仲良しこよしなパラレル時空の物語を描いたパロディモードが欲しかった。

温泉イベで立ち絵のタオル差分が用意されてないのはどういうことだ?

まとめ

f:id:sinodakei:20210714061910p:plain 典型的な物語を見せるためのゲーム。とりあえずRPGのガワを被せているといった感じで、戦闘システムは斬新なれど長時間プレイする快適性をまるで考慮しておらず高エンカ率のダンジョンやサブクエの面倒くささなど何をやろうにも時間がかかる。やり込み要素の多さが持て囃された20年近く前のRPGならいざ知らず、今時珍しさを感じるほどシステム面は古臭い。

翻って物語の質は高い。スロースターターで序盤こそ退屈だがオリジナリティは担保されているし、明け透けだがくどすぎないメッセージ性も好印象。人の深部に踏み込んで弱さに共感する作りはキャラゲーとして根を張った面白さがあり、だからこそ裏切りが映える作りで一粒で二度おいしい。

結論としてシナリオは面白かったがこの面倒な戦闘を乗り越えてまで人にオススメ出来るかと問われれば正直口をつぐんでしまうし、筆者自身最近発売されたカリギュラ2を手に取るのを躊躇してしまうような出来。でもまた完全版が出たら戦闘が合わないのを承知で買ってみようかな、そんなレベルだ。

f:id:sinodakei:20210714061848j:plain 以上、読んで頂きありがとうございました。

*1:ゲームをよく遊ぶ方ならこの数字がいかに精度の低いものか分かって頂けるだろう。