さぐりがき

据置ゲーの情熱を取り戻したい男のブログ

自由な旅は自由への旅路。『Road 96』レビュー

今回は『ロード96』をレビュー。ジャンルはADVで販売はコチメディア。2周とトロフィー目当てに少し遊んでおそらくプレイ時間は多めに見積もっても15時間未満。トロコン済。

なんか旅ゲーらしいとうっすらした情報だけ聞いてプレイ。記事後半ではネタバレではないもののエンディングに言及してるので先入観持ちたくない人は回れ右。

あらすじ

国境を越えれば自由になれる。

そう信じて、ここ96号線までやってきた。これまで今まで色んなことがあった。星空の下のキャンプ地で女の子と将来を語り合ったかと思えば、ヒッチハイクでトラックの運ちゃんの恋バナに付き合わされた。空腹に耐えかねてお金を盗んだことも、強盗に銃を向けられたこともあった。思えば上手くいったことの方が珍しかったけど、それでもこの旅路に後悔はしていない。

思い出に浸るのはここまでにしよう。国境を抜ければいくらでも時間はあるのだから。どうかこの旅路の最後が自由への始まりでありますように──。

長く険しい旅路

本作は一人称視点のADVだ。舞台は1996年の独裁主義国家ペトリア。主人公はこの国の脱出を決意したよくある若者のひとり。真っ向から対立する二人の候補者による大統領選を間近に控え、不安定な国内情勢は否応なく主人公の旅路を翻弄し運命を飲み込んでいく。ゲームシステム的には会話劇+ミニゲームといった感じ。

旅において重要なのが体力お金だ。体力が尽きると野垂れ死んでしまうのでプレイヤーは常にこの2つに気を配りながら旅を進めていく。

移動手段は徒歩・バス・タクシー・ヒッチハイク・盗難車と様々。徒歩なら当然疲れるので体力を消費するし、バスは楽だがお金がかかる。ヒッチハイクならどんな人物と出会うかは未知数だし、車を盗んだら警察にお世話になること請け合いだ。でもこの国の警察は腐敗しきってるので袖の下を通せば許してくれる…かもしれない。こうした残り体力と財布に相談して次を経路を決めるマネジメント的やりくりってのはそれだけで案外楽しいもんだし、店や車ではいつでもカセットテープで好きな音楽を掛けられるので旅のお供に最適だ。なんてったって今じゃすっかり見なくなったカセットですよカセット、それだけで風情がありますね。

そして本作最大の特徴として次にどのような物語が待ち受けるかはランダムなのだ。同じ場所で同じ移動手段をとっても同じ話になるとは限らない。イベントの量は数十個に渡るのでほぼプレイヤーだけの物語が展開されるといっていいだろう。最終的に全てのイベントを見るにしてもどのイベントを先に見たかでその印象は変わってくる訳で、これがプレイヤー自身の旅らしさ、唯一性を強調してくれる。

歩き疲れてヘトヘトの中ようやく一息つける店に到着したと思ったら、店主からばっくれたバイトの代わりにバーテンダーをやってほしいと頼まれた。残りの所持金も少ないし給料出るならこれ幸いと引き受けてみれば、酒だ酒だと喚く何人もの客にどこに何があるのかすら分からない十種類以上の酒の数々!ここまで大変だなんて聞いてないんですけど!必死こいて注文を聞いても客の喧騒は鳴り止まない。結局カウンター内を右往左往するばかりでロクに注文もこなせないまま仕事は終わってしまった。もちろん貰える給料は雀の涙。もうちょっと手加減してくれよ。

……というように、本作のミニゲームは割と唐突に始まる。その中身は仕事以外にも他愛ないサッカーや反射神経を要求されるカーチェイス、頭を使った謎解きまでと幅広い。どれもルールや操作こそ単純だが最良の結果になるとは限らないし、むしろ満足する結果になるほうが稀だ。失敗しても誰に何を咎められる訳でもないのである意味では簡単だし、ある意味ではシビア。成功しても失敗しても容赦なく物語が進む姿はまさしく人生。そう、このゲームは誰かの人生を追体験するゲームなのだ。

もちろんいつでも都合よくお金を稼げるとは限らない。着の身着のまま飛び出したので所持金はコイン数枚、ホテルどころかハンバーガー1個すら買えないのは日常茶飯事。しょうがないので少しでも体力を節約しようとダンボールを寝床に野宿するのは仕方ないにしても、まさか小銭欲しさにゴミ箱を漁るとは思わなかった!汚ねえ、ひもじい、こんなことしてたら体より先に心が痩せ細っちまうよ。自由のためには泥を啜る覚悟とはいえ、本当に泥は啜りたくない。

しかし人間不思議なもんでこうした行動を続けていくと段々感覚が麻痺してくる。最初は絶対に悪事に手を染めないぞと誓っていても、つい魔が差してそこら辺に置いてある小銭をくすねるようになるのだ。しかもこうした窃盗を続けていると「落ちてるキャッシュカードは盗むのは悪いことだけど、小銭くらいなら大丈夫っしょ」といつしか自分本位で正当化し始める。終いにはその考えすらエスカレートして他人のキャッシュカードすら平気で使うのだから救えない。

現実では捕まるからこそゲーム内での犯罪行為は独特の味があって楽しいものだが、本作では悪意や利益優先というよりもっと切羽詰まった生きるために止むに止まれず手を染めるので妙に生々しい。結局それがいつしか利己主義に走り悪意に染まる部分まで含めて自分が堕落していく心境がじっくり味わえるのは結構貴重な体験だった。よかったよこれがゲームで。実際に犯罪やりたくないし。清貧なんて存在しないあるのは赤貧だけって言葉はホントそう思う。でもさすがにいくら腹が減ってるとはいえ腐った食べ物には一度も手をつけられなかった。病気になりそうじゃん。

旅先で出会う主要人物は若いパンクなお姉ちゃんに生意気そうなギフテッド小僧とさまざま。彼らと和気藹々とした親睦を深め青春真っ盛りの旅を謳歌したい……のはやまやまだが、旅という言葉に浮かれるなかれ主人公がやっているのは紛れもない亡命なのだ。いつ死んでもおかしくない祖国を見捨てた逃避行、それが亡命。なので必然的に会話も政治にまつわる話題が多くなる。

投票・暴力・自由。多くの選択肢にはこの3つの属性が割り振られており、どの選択をしたかで先の展開が変化する。とはいえこのような選択肢は基本的に自分の進めたい属性一択で遊ぶことが多いだろうし葛藤とは無縁だ。むしろ属性の存在しない何気ない日常会話や時として訪れるその後を大きく左右する二択のほうが選ぶ際に心を砕く。一見生意気そうなガキに見えても親と上手くいってないと吐露されたらどんな言葉をかけたらいいか慎重になるってもんだ。

ひとつ断りを入れておくと政治を扱ってるとはいえ全然説教臭くないし、逆にめちゃくちゃ難解でもない。あくまで自分達の生活の延長戦上の出来事として描かれているのがよかった。個人的に政治を扱うからには風刺やブラックユーモアが必ず必要とは思わないし、そもそも政治が出てくるだけでそういった要素に過剰に期待するのはナンセンスだろう。ただ誤字脱字が目立つのは気になるのでもう少し翻訳には気を使ってほしかった。

そして念願の国境越えを果たしてようやく自由を迎えてもはたまた志半ばで倒れても、まだまだ旅は終わらない。今度はまた別の誰かとなって国境越えの旅を続けるのだ。別の誰かと言ってもいちからリセットではなく時系列は地続きなので、新しく旅を始める際にはニュースキャスターが直前の旅で発生した事柄を報道してくれる。おかげで単純な結果を求めるだけの繰り返しという印象は薄れるし、道半ばで倒れてもさっきの旅は無駄じゃなかったんだなと思えるのが嬉しい。

ある旅路ではトラックの運ちゃんにヒッチハイクで送ってもらったのに、また別の旅では同じ運ちゃんが助手席に座っていたりする。主人公が違う人間なので当たり前といえば当たり前だが、さっきまで仲良くしてた人間と意外な場所で出会うのは新鮮。さっきは当たりが強いと思った人が別の視点では驚くほど優しかったりするし、意外なところでばったり出くわすおかげで彼らも日常生活を送る普通の生きた人間だとより実感が増してくる。

そして登場人物たちと絆を深めれば特殊能力が手に入りもっと自由な行動が可能になる。これでもっと旅がしやすくなる…かはあなた次第だ。ちなみに特殊能力は主人公が変わっても受け継がれるため無駄な作業はいらないので安心してほしい。

そして何人もの若者の視点を通して旅を続けていくうち過去にこの国に何があったのか、そしてこれから何が起ころうとしているのか物語の全体像がおぼろげながら見えてくる。これを見届けるのがこのゲームの最終的な目的だ。ここから先はネタバレになってしまうので割愛する。こういうのは固有名詞とか人物相関図とか頭で理解して組み立てるところからゲームだと思ってるのであんまり言い過ぎても良くないだろうし。

時として強盗に遭うことも警察の厄介になることも生意気なガキとポンで遊ぶこともあるだろう。不幸としか言いようのない死が続いて理不尽さを覚えることもあるかもしれない。それでも国はしたたかに、誰かの人生はつつがなく続いてゆくのだ。この国の未来に何が待ち受けるのか、是非見届けてもらいたい。

それは物語か人生か。

筆者は1周目は平穏な選択肢をメインに選び続けてプレイしました。もちろんミニゲームを失敗してもやり直したりはしない一発勝負。一人目であっさり国境を抜けられたので若干拍子抜けしつつも、何人も旅を続け最終的に目標は達せられたけど悲劇的なエンディングを迎えてしまった。

そうかいじゃあ今度こそ望んだ結末を迎えてやるぜと意気込んで2周目を遊んだのだが、これが結構キツい。なんせイベントの発生がランダムのためフラグ立てだけしてショートカットなんて真似は出来ずほぼ同じ話を丸々見ることになる。1周目で苦労したミニゲームも今度は楽々クリアできてちょっと嬉しかったものの、ほぼ些事に等しいレベルの変化なので基本退屈だ。こういうゲームは周回向きじゃないと分かっていてもつい周回してしまうのは人の性ってやつだ。

そして今度は全ての重要なフラグを自分の望んだように選択し、時間をかけてどうにか2周目のエンディングに辿り着いたのだが。なんと演出が1周目と殆ど変わらなかった。これには流石に拍子抜け。いやなに本作のテーマからしトゥルーエンドが存在しないのは分かっていたのだが、それにしたって殆ど変化が無いのは期待外れだしオチが弱いのがいまいち腑に落ちなかった。

旅で誰かの人生を追体験するのがこのゲームのテーマ。人生には生きてる以上エンディングは存在せずどんな物事も節目でしかないことを踏まえれば大仰なエンディングを用意しなかったのは理解できる。とはいえ一人の人間の人生に密着したテレビのドキュメンタリーだって起承転結があって相応のオチを持たせた構成が大半な訳で、もっと円満さが分かりやすい演出があってもよかったと思う。追体験とはいえ複数の人間の視点を跨ぐ以上どうしてもそこに物語性を期待してしまうわけだ。人生としてみれば納得だが物語としてみたら物足りない、そんな印象。まあ平和な選択肢しか選んでないのでもしかしたら別ルートで大きく変わるのかもしれないが、流石に3周する気は起きないよ。なのでここらへんで終幕。

誤解されても嫌なのでメインディッシュは美味しかったけど食後のスイーツが薄味だったくらいの話だと軽く聞き流してくれれば幸いです。

まとめ

良作。旅を彩る景色と音楽は申し分ない旅情を与えてくれるし、何気ない世間話から人の一生を左右する重要な局面まで幾度となく迫られる決断は自分だけの旅路という想いを確固たるものにしてくれる。学生のバックパッカーのような気分も明日をも知れぬ亡命者の気分もどちらも味わえるので、おそらくあなたと私で全く同じだけど全く異なるゲームになるはずだ。

しかしエンディング周りはあっさりしすぎ。多岐に渡るシチュエーションで旅路を盛り上げてくれただけに最後の最後こそ一番の山場であってほしかったし、物語としてのエンディングを優先してほしかった気持ちが強い。これはこれで良いと思える内容ではあるのだが周回してまで二度結末を見届けたのだから少しくらい欲張りになってもいいだろう。

ただそれを含めてもこの旅で聞いたこと感じたことは唯一無二。たまには答えのないゲームに浸ってみるのも悪くないはずだ。

以上、読んで頂きありがとうございました。