さぐりがき

据置ゲーの情熱を取り戻したい男のブログ

期待と失望はコインの裏表。『ZERO ESCAPE 刻のジレンマ』レビュー

f:id:sinodakei:20210808024029j:plain 今回は『刻のジレンマ』をレビュー。販売はスパイク・チュンソフトで開発はチャイム。ジャンルはADV。プレイ時間は21時間24分。オリジナル版は未プレイ。

結論から言うと重度のムービーゲー非常につまらなかった。なので割と愚痴が多め。よしなに。

前作のレビューはこちら。

sagurigaki.hatenablog.com

あらすじ

f:id:sinodakei:20210808031701j:plain f:id:sinodakei:20210808032014j:plain 実験施設Dcomで共同生活をしていた9人の男女。そこへ突然現れたゼロという名前の男と告げられたDecisionゲームの開幕。今、最後のデスゲームが始まる。

Decisionゲームとは

f:id:sinodakei:20210808024051j:plain f:id:sinodakei:20210808024049j:plain 今度のゲームは3人1組の3チームが互いに蹴落とし合うチーム戦だ。それぞれ異なる区画に収容され行き来ができない中でゼロの用意した無理難題に挑むことになる。90分ごとに眠らされそれまでの記憶を消されるので過去の自分の行動すら分からない不安が登場人物達を追い詰めていく。

脱出するための6つのパスワードは6人死ななければ入手不可能。なので相手2チームをまるごと全滅させるか自チームの仲間を裏切るか、これまで以上にデスゲーム感の増した状況で互いに疑い続ける地獄絵図が繰り広げられる。

謎解き

f:id:sinodakei:20210808024831j:plain f:id:sinodakei:20210808024834j:plain f:id:sinodakei:20210808024837j:plain 今度の謎解きの難易度はだいぶ控えめ。前作のイージーと同じようにヒントを豊富に喋ってくれるので悩みこそすれ詰まることは無かったが、異彩を放っていた1つの謎に2つの答えを持つ謎解きも無くなってしまったのはやや寂しい。難易度が高かったせいか後ろ髪を引かれるような思いを抱かせてシナリオの熱中度を阻害していた反省かは分からないが、丸ごと削除されたのは手心を加えられているようで達成感も控えめだ。

ヒントをペラペラ喋ってくれるのはありがたいが一刻の猶予を争う命の危機でも悠長にジョークをかますのは緊迫感に欠けるし、似たようなパズル問題が多くネタ切れぽさも感じてしまった。あくまで本作の目的は広がった風呂敷を畳むことにあるので謎解き要素は添え物程度の存在感に落ち着いたのかもしれない。

致命的な欠陥

物語について語る前にシナリオの見せ方についてひとつ。

f:id:sinodakei:20210808035615j:plain f:id:sinodakei:20210808035612j:plain 本作はADVでおなじみのテキストウィンドウは存在しない。フルボイスのムービーによって物語が展開されていく。じわじわした緊迫感ある物語と多彩なアングルは見応えあるが、文字送りができないのでひとつ10分から20分のカットシーンを一から十まで見るのは非常にテンポが悪い。

未読スキップをオンにすれば擬似的な文字送りは可能だがカット単位でスキップされ台詞を飛ばされるので逐一バックログで見返す羽目になり使い勝手が悪い。

どうして自分のテンポで読み進めることが出来ないのか。

ちょっとこれマジでガチで理解できない仕様というか、明らかなシステムの不備だ。こうしたカットシーン主体のゲームでもADVなら1行ずつ台詞送りできるのは当たり前だろうに何故こんな基本的な見落としをしてしまったのか理解に苦しむ。マジで何考えてんのコレ。まさかボイスを最後まで聞く人が多数派だと思ってる訳でもあるまいに。 f:id:sinodakei:20210808035618j:plain とはいえとりあえずはバックログで見返すよりムービー垂れ流しのがマシと死んだ魚の目で観ていたが、ジリジリ不安を煽る余白を取った演出が多いので退屈で眠気を誘うしどうしてもソシャゲに手が延びる。ウマ娘育成にアーカルムチケ消費や種火周回までする始末でながら見以上の価値を感じられなかったのが痛い。結局どんな優れた物語も優れたUIあってこそなのだ。

過去作でシステムとシナリオが密接に絡み合う演出を見せただけにUIで評価を落としたのが残念でならない。

とにかく筆者が言いたいのはプレイヤーから主導権を奪うなという一言に尽きるのだが、しかし悲しいかなこのご時世アプデで修正されないことからも分かる通り不備ではなく仕様という事実がなんともやるせない。前述した謎解きパートではテキストウィンドウが表示されポンポン読み進められるだけに余計に理解ができないが、これがこのゲームの在るべき姿という事実と自信ということなのだろうか。一応見るという行為に相応の理由があるとはいえ、ギミック優先でプレイヤーの心情を置いてきぼりにした仕様には首を傾げざるを得ない。

シナリオ

ここからは主にシナリオの中身に関して。

f:id:sinodakei:20210808045207j:plain キャラのグラフィックは黒い縁取りがなされ大画面のアップにもある程度耐えうる程には質が向上した。洋画の様な見た目で癖が強いものの十分許容範囲と言えるレベルで何の違和感も覚えず普通に観れる。ただ海外寄せして海外ウケを狙うより日本らしさを十全に発揮して海外ウケも狙うほうが遥かにカッコいいと思うので無理矢理寄せに行かなくても良かった気はする。だって前者で滑ったら凄えダサいし。まあ俺は外国人じゃないので可もなく不可もなく普通に見れたとだけ言いたい。

しかしシリーズ完結作を謳っている割にキャラデザが変更されたのは解せないのでそこは一貫してほしかった。もちろんキャラに対しても新旧キャラデザ担当の西村キヌ友野るい両名に対しても不満は無いが急な路線変更という事実そのものがシリーズ作としてそぐわないだろう。

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本作は3チームの短編を好きな順番でオムニバス形式で読むことが可能だが、正直このシステムはそれほど面白さに寄与していなかったように感じる。どの順番で読んでも楽しめるのは逆に言えばどの順番で読んでも影響が無いという話であり、いくら時系列の分からない出来事とはいえどれも謎解きデスゲームの種類が変わる程度で変化の幅が小さいので組み立て想像する面白さも薄め。そもそも過去作で一本筋の物語では無いことが既に露呈しているため生存しているはずの人間が死んでいようが「ハイハイ別ルートの話ね」と軽く受け流せるレベルの耐性が出来ているので驚きようがない。今回のゼロはやたら過干渉でお喋りなので勿体ぶった語りが鬱陶しいし、場合によっては似たような展開を3パターン見せられるのも煩わしい。最終的に全ての時系列が詳らかになる演出も想定内でさほどの驚きもない。

謎解きの前後に長尺のムービーを挟むのも魅せ方が悪いとしか言いようがなく、ダラダラ映像を流すばかりで何が重要かを強調しないムービーは酷く退屈で苦痛でしかなかった。せめて謎解き前のムービーくらいはテンポ良くしてほしかったところだ。謎解き後なら達成感とともに多少は観る余裕も出てくるが、謎解き前のあまりに長いムービーは謎解きに対するやる気と没入感を削ぐ邪魔でしかない。

f:id:sinodakei:20210808060413j:plain f:id:sinodakei:20210808060416j:plain f:id:sinodakei:20210808060419j:plain 今回はこれまで以上に猟奇成分が多めだ。施設内部にはショットガンやらチェーンソーやらやたら物騒なものが置いてあるのでゴリゴリの死闘や3人揃っての膠着状態といった血みどろの殺し合いになる場面も多い。ソフトなリョナラーで三白眼フェチな筆者としては一旦ソシャゲの手を止めてバッチコイと受け止めるほど残虐なシーンがあるのはそこそこに楽しめた。とはいえ肝心なシーンは写らないのでもう少しハードでも良かったかもしれない。

色っぽい悪女から小さいヨコオタロウみたいな仮面のショタっ子*1、正義感に溢れたアメリカンな青年などの新キャラが登場するが、彼らの多くに自らの悲惨な過去をペラペラ喋らせたバックボーンの薄さを強調するだけの演出が多く見られたのはいただけない。

f:id:sinodakei:20210808062705j:plain 最後に物語のギミックについて感想をば。

時系列ゴチャ混ぜで閉じ込められた区画といった時点である程度叙述トリックだと察しはついたが期待を超えてくるようなものではなかった。いや驚いたのは確かに驚いたのだが、そのギミックのベクトルが物語を畳む方向に支点が置かれていていまひとつ楽しくなかったのが理由だ。

過去作で見せた登場人物たちの特異な能力が発揮されるのも物語後半でそこに至るまでの道程が迂遠なのもやきもきするし、能力自体も反則スレスレのバーリトゥードで熱が冷める。肝心のEDに関しても難アリというか正直トゥルーエンドを見終わった後ですら完結したことに気付かなかった。それほどのブツ切りエンド。せめてトゥルーエンドのエンドロールくらい他と差別化させる配慮はほしかった。プレイヤーの解釈に委ねる終わり方かと思いきやアーカイブで各キャラのその後が語られるのもチグハグだ。最後の最後に何故か黒幕を法的に罪に問えるか否かつまらない押し問答が始まるし、そもそも前作シボウデスEDで広げた風呂敷回収以上の意味を持たない物語なのも期待外れ。プレイヤーから操作を奪う割にオチが微妙というのはサッカーで例えるならボール支配率が高いだけで決定力不足と言った感じで虚しさが募る。

これほどSFやオカルト要素を使って点を線で繋いだところでパズルのピースがカチリと嵌る気持ち良さよりどうでもよさが上回ってしまったのは無念でしかない。

まとめ

f:id:sinodakei:20210808062812j:plain プレイ時間の半分以上がムービーを観るだけという暴挙。実際に測った訳ではないが体感では8割越えといっても過言でないほど退屈なムービーの連続は苦痛だった。なんやかんや過去作を楽しんで期待していたぶんガッカリだ。台詞送りができないなんて基本的かつ致命的なやらかしで大きく評価を落とすとは思いもしなかった。前作からブラッシュアップされたグラやこだわりのカメラワークなど見所もあるがそんなものUIの不備に比べりゃ些細なことで評価を覆すには至らない。画竜点睛を欠くとは正にこのこと。とりあえず何か別のゲームを遊んで早く口直ししたい。

おそらく過去2作は物語にプレイヤーが介在することで深く没入感を高める狙いがあったはずだ。しかし今作では演出過多になりすぎてプレイヤーから主導権を奪い没入感を削ぐ結果になってしまった。単なる退屈なムービーゲーならここまで失望しなかっただろうが、まるで正反対のあべこべな作りになったことがより落胆を深くさせた。風呂敷を畳むことに注力した割にその終わり方は締まりがないし大団円でもないので結局何が描きたかったのかもよく分からない。

正直過去5年間で遊んだゲームの中でワーストと呼んでも差し支えない出来。期待していた完結編は倦怠感と苦痛に満ちた苦み走った終わり方で呆気なく散ってしまった。とりあえずはこの遺憾の意を文章として残すことで自らの感情へのせめてもの手向けとしたい。

f:id:sinodakei:20210808063011j:plain 以上、読んで頂きありがとうございました。

*1:正しくはエミールだけどすっかりヨコオタロウのイメージが付いてしまったあの被り物。