今回は『シボウデス』をレビュー。開発販売はスパイク・チュンソフトでジャンルはADV。プレイ時間は31時間48分。オリジナル版は未プレイ。だいぶふざけたタイトルだけど一周回ってこれはこれでアリと思わせるタイトルはさすがだ。
前作のレビューはこちら。 sagurigaki.hatenablog.com
あらすじ
「もしかしたらゼロはこの中にいるかもしれない。」
あってほしくない予想を目の前のゼロ3世はあっさりと認めた。自らを作られたAIだと語るウサギは黒幕が俺達の中にいるという。
周囲の人間が口々に疑問や不満を叫ぶなか、発言した当事者であるファイはにべもなく佇んでいる。白髪に華奢な風体で一見薄幸の美少女と呼びたくなるが口は悪いし愛想も悪い、初対面なのに俺のシグマという名前を言い当てた得体の知れない女。一体コイツは何をどこまで知っているのか。
そんな疑問をよそにウサギは笑う。ゲームは始まった。
ノナリーゲーム・アンビエディションとは
またしても狂ったデスゲームが始まってしまった。その名も『ノナリーゲーム・アンビエディション』。今回の勝利条件は前作同様9と書かれた扉をくぐって脱出すること。それは変わらない。しかも扉は参加者たちのすぐ目の前にあるので危険を冒して探し出す必要すらない。
なんだぁ〜楽勝じゃんと思いきや、今回から謎解きをひとつ終えるたび広場に引き返して協力裏切りを選ぶ投票システムが導入された。そう、今回のバングルナンバーは可変式で数値が9以上になった者が脱出できるのだ!
いわゆる囚人のジレンマと呼ばれる投票結果でポイントは増減する。脱出の扉が開くのは一度きり。一人でも脱出すれば残されたものは永遠に閉じ込められるので、いかに他人と自らの良心を欺くかが試される。相手を信じすぎても疑いすぎても欲深すぎても無欲でもいけないのだ。
実は他にも色々あってバングル自体の機能はもっと複雑だ。正直複雑すぎてどこまで説明したもんか悩んだがとりあえず書く。分かりづらいので心して聞くよーに。
- 数字は光の三原色に基づいた3種類に色分けされる。
- 数字にはソロ・ペアの区分があり同色ペアは2人1組で行動する。
- 謎解き部屋のドア(通称カラーズドア)には対応する色だけが入室できる。クリアすれば自由に通行可能になる。
- カラーズドアに入れる組み合わせは同色・補色によって決定される。赤赤なら水色、赤青なら紫。
- 投票を終えると新たな色にランダムに振り分けられる。
な、分かりづらいだろ!?これらをゲーム序盤のルール説明で一気に説明されるのは少々とっつきづらい幕開けで、覚えてしまえば楽勝だがいきなり説明されても理解しづらい仕組みといえる。ぶっちゃけADVというゲーム的な都合というか無限の選択肢を防ぐためのルールで覚えなくても困らないのでもう少し直感的に理解しやすい仕組みでも良かっただろう。
謎解き
今度の謎は手強い。
前作は部屋に散らばる雑貨を組み合わせた日曜大工的な謎解きも多く、苦労せずとも流れでクリアできることもしばしばあった。しかし今作では部屋に隠されたルールをしっかり読み込まなければ謎解きの土俵に立つことすら不可能だ。どれも四則演算さえできれば解けるものばかりだが答えに至るまでの道筋は酷く険しい。文章に潜む嘘つきを暴いたり砂時計を比較して秒数を求めたりパズルやらサイコロやら前作比50%アップになった謎は嫌気がさすほど歯応えがある。
加えて全ての部屋には一問だけひとつの謎にふたつの答えが用意されている。これがめちゃくちゃ難しい!全く同じ手がかりから異なる答えを導き出すために思考の角度を変えるのはとんでもなく苦労する。クリアに必要なのは脱出に必要な片方のみでもう一方は完全なやり込み要素で解く必要はないが、それだけに一気にスパッと二つ解けた時は達成感にあふれて気持ちがいい。
しかし逆に言えば解けない謎を一問だけ残し後ろ髪を引かれたままシナリオを読むのはなんとも気持ちが悪い。個人的にこの気持ち悪さがどうしても我慢できずネットで答えを3つ4つ見てしまったことをここに懺悔しておきたい。だって1時間近く延々唸って解けなきゃそりゃギブアップするよ!むしろここで白状したのでどうか許してほしい。
謎解き部屋はオール3Dになり中央からぐるっと見渡せるので隅から隅まで探索する根気が重要だ。証拠が見つからないまま延々とさまよう時間も増えたので謎解きに入る前から難しい。
シナリオ
キャラは褐色のお姉さんから仮面の男まで賑やかだが元が携帯機なので3Dモデルのクオリティは低くマネキンぽさは拭えない。西村キヌ氏が描くキャラの魅力の半分すら伝えきれておらず、前作の立ち絵がアニメめいた塗りと動きで楽しませてくれただけに残念だ。一部のムービーを除くとイベントシーンは紙芝居なのも拍子抜けで臨場感や迫力が薄まりデスゲームの緊迫感さえ欠けてしまった。こうした微妙な出来を見るたび無理して3Dにこだわるより絵でいいじゃんといつも思うのだが、コストとかいろんな制約があるししょうがないのかなぁ。
ただメインヒロインであるファイは口が悪く愛想も悪いが感情を剥き出しにするのにミステリアスという一風変わったキャラクターで楽しめた。煮ても焼いても食えないおもしれー女だが相棒役としての信頼感は抜群でたまに見せる笑顔が可愛い。
何を言ってもネタバレになりそうで怖いところだが、本作の肝はやはりシナリオだ。ネタバレは書いてないが先入観無しで遊びたい人は回れ右。
物語はすげー良く出来てる。
謎を解き明かすことで自分たちが閉じ込められた理由や黒幕の目的が明かされ、最後に待ち受ける一部の隙もない種明かしでまるっと収まる構成は見事だ。
本作は一つの結末を見るだけでは完結しない。様々なルートを進んで得た情報を元に異なるルートを横断する形で核心に迫っていく。ちゃんとゲームシステムに対してシナリオ上でも意味を持たせているのは非常に俺好みな作りで、前作をさらに推し進めたシナリオとシステムが密接に絡み合った世界を神視点を持つプレイヤーが紐解く構造自体が非常に楽しめた。
ただ、どのルートも結末こそ大きく異なるが中盤の展開はほぼ似たり寄ったりで大きく中だるみする。ルートによって全く異なる謎解きに変わるため何度も同じ謎を解かされウンザリすることこそ無いが、差分レベルの微細なテキスト変化でいちいち高速スキップが止まるのは煩わしい。前作には主人公にボイスがあるのに今作はない時点で何かあると早々に推測できてしまうのもアウトだ。
本作の大きなセールスポイントである協力裏切りの投票もカイジのようなそれ自体の心理戦が物語の主題ではなくぶっちゃけただの選択肢でしかない。プレイヤーがみな期待するであろう自分が裏切り続けた結末がショボいのも期待に応えきれていない。
その構造上徐々に物語の全貌が明らかにはならずEDで一気にドバッと種明かしされるので、最後の最後に大量の設定と共に4つも5つもポイポイポイと驚きの感情を放り込んでくるのはさすがに疲れるし個々のインパクトも薄くなる。驚き疲れといって差し支えないだろう。あまりに長く種明かしが続くのでどこか独りよがりな独演会めいた白々しさも感じてしまう。やや突飛とも言える浮世離れした設定は納得こそできるが飲み込みづらいし、一部のキャラの救いがない結末も後味が悪い。
この構造でなければ為し得ない見事な物語であると同時に、この構造の持つ弱点も露呈している。
どうしても前作の引き締まった作りと比較すると面白さと表裏一体の弱点が足を引っ張る印象だ。重ねて言うが欠点ではなく弱点であることは留意してほしい。本作は物語としてしっかり風呂敷はまとまっているが、またしてもクリフハンガーで三部作の二作目ならよくある終わり方とはいえ投げっぱなしの量は前作以上で若干の倦怠感がつきまとうのがしっくり来ない原因かも知れない。
気になった点
- 前作同様UI非表示できないなどUIが甘い。
- 使い勝手の悪いメモ機能。ヒントと問題を見比べて悩むことが多いのでワイプを用いた二画面表示がしたかった。
- 移動する際毎回マップが映し出されるのはテンポが悪い。
- コロナ禍という現実が一部の設定を上回ってしまったこと。つくづくフィクションを超えた世の中になってしまったと感じる。
まとめ
面白かった。面白かったが振り返ってみるとプレイ時間30時間超えにしては何か物足りなさが残る。構成としてはめちゃくちゃ好きだし楽しんだのだが、やはり付随する中だるみや推理物なのに全てが解き明かされない不全感が原因か。次作に続く線が太いのは困りものだ。とはいえ色々考えてもしゃーないので普通に面白かったとまとめてもいいかもしれない。
まぁそんな諸々のプレイヤーの感想すら計算ずくと思わせるほど全てが緻密に練り込まれたゲームであるのは事実なのでさっそくシリーズ完結編刻のジレンマやりましょうか。
以上、読んで頂きありがとうございました。