さぐりがき

据置ゲーの情熱を取り戻したい男のブログ

その頂きこそ彼女の望み。たぎる闘志は数多の夢を置き去りにする。『ウマ娘 プリティーダービー』 レビュー


今、ウマ娘が熱い!



有名競走馬の名を借りて美少女のガワを被せただけのよくある擬人化ソシャゲと思いきや、その見た目からは想像できぬほど熱を帯びていた。
それもそのはず開発・運営はグラブルで有名なサイゲームス。事前登録開始から約3年、出走を今か今かと待ちわびた期待の新作は見事スタートダッシュを決めた形だ。

ということで今回はウマ娘 プリティーダービーをレビューしよう。なお筆者は競馬ファンでもなければウマ娘のアニメファンというわけでもない。ヤングジャンプで連載中のウマ娘 シンデレラグレイ』を読んでいる程度という点をご了承願いたい。熱い少年漫画のお手本のような作りで面白いんだこれが。まだガチャでオグリキャップ引けてないけどな!



本作は育成ゲーでシステムはほぼパワプロ(アプリ)サクセスを踏襲しておりプレイヤーはウマ娘を育成するトレーナーとして働くことになる。ウマ娘たちはそれぞれ異なる脚質や距離に応じた適正を持つので必要に応じてスピード・スタミナ・パワー・根性・賢さの5つのパラメータを鍛え上げていく。育成開始時に選んだ複数のサポートカードによって任意のイベントによるスキル取得やトレーニング効果アップも狙うことができ可能性は無限大。先行逃げ切り型にしたいのか追い込み型にするのか育成を始める際にしっかりと完成形を思い描き、少しでもその理想に近づけていくことが大切だ。
そして「〇〇のレースで3位以内」といった段々と厳しくなる目標を最後まで達成することで物語を見届けつつ、その先に待つURA優勝(パワプロでいう全国大会優勝みたいなもの)を目指すことが育成のゴールとなる。



パワプロを現在まで20年以上続く人気ゲームへと仕立て上げた奥深いサクセスシステムを取り入れただけあって育成の面白さは折り紙付き。低体力で怪我率とにらめっこしながら祈るような気持ちでトレーニングを強行したり、不意のやる気ダウンや体調不良に泣かされカッと頭に血がのぼったかと思えば友情トレーニングの幸運に恵まれ急上昇するパラメータに悦に浸ったりと『リスクとリターンとランダム性がごちゃ混ぜになったカオスをどうくぐり抜けるか』という本家パワプロの持つ面白さはしっかりと再現されている。サービス開始直後だけあって攻略情報も無く育成は手探りで完走するだけでも一苦労。ついもう一回もう一回とズルズル遊び続けてしまうほどに中毒性は高い。
なお目標のレースに敗北し途中で育成を終えてもそれまでの育成結果は保存されるのであえてリスキーな選択肢を狙っていくのも面白い。ちゃんと居るんですよ、ダイジョーブ博士

本家パワプロではプレイする機会の減った3年制サクセスである点も魅力のひとつ。バレンタインやクリスマス、夏の厳しい合宿といった四季折々のイベントを何度も繰り返し長い時間をかけ共に歩んでいる感覚に浸れるのは3年制ならではの利点だろう。天皇賞菊花賞といった一年を通して開かれる様々なレースにも出場可能で、季節とともにウマ娘が少しずつ強くなっていく姿を見るとどの子にもおのずと愛着が湧いてくる。



ウマ娘たちは実在の競走馬がモデルとなっており多くが実名で登場する。ハイクオリティな3Dで描かれたかわいらしい美少女の姿であるウマ娘たちはお嬢様・小悪魔・おっとり系など一目でどんなキャラクターか分かるほどデザインも洗練されており、ウオッカにライバル意識を剥き出しにするツンデレ属性ダイワスカーレットや破天荒でエキセントリックな言動を繰り返すゴールドシップなどみんな個性的なキャラクターが揃っていて賑やかだ。個人的にはエアグルーヴシンボリルドルフが好き。凛々しくて好き。

その華やかな見た目からよくある美少女ゲームと思いがちだがシナリオ面は(程度の差こそあれ)同じ目標に二人三脚で挑むパートナーとしての側面が色濃い物語となっており、恋愛物というよりバディ物に近い。俺は後者の方が好みなのでこれは嬉しい誤算だった。
余談だが本作で使われている漢字のの字の部首のれっかの点の数は4つでなく2つである。これはこの世界は馬の代わりにウマ娘がいるからだろう。初めて見たときは思わず「どんなこだわりだよ!」とツッコんでしまったが、こんな割とどうでもいい部分にすら妥協を許さないとは開発の気合いの入った作り込みがうかがえる。


ここでシナリオの中身をふたつほど紹介しよう。

ひとりめはその連敗ぶりが逆に注目の的となりかつて人気を集めたハルウララ
競馬ファンでない俺でも名前を覚えているほどだ。彼女はウマ娘として常に健気で前向き、天真爛漫な愛くるしいキャラクターとして描かれている。

多くのウマ娘の目標が育成当初からレースで入賞する必要があるのに対し、彼女の序盤の目標はファン数を増やすこと。別に急いで1着を取る必要はなく、負けたからといって育成失敗になる訳でもない。レースに出さえすればファン数は次第に増えていくので他のウマ娘と比べて圧倒的に育成が楽な部類に入る。短距離・ダートが得意な彼女にとって条件有利なレースも多く、1位を取るのもそう難しい話ではない。

しかし問題はシナリオ終盤。ただ楽しく走ればよかった彼女が日々鍛錬を重ね周囲のウマ娘たちから刺激を受けるなかで「本気で勝ちたい」と強く願ったとき、とてつもなく分厚い壁が立ち塞がる。

有馬記念

有馬記念とは年末に長距離・芝で行われるハルウララの適正とは正反対のレース。もちろん事前のレース予想は全滅で本番の結果もそれまでの楽勝ムードが嘘のようなボロ負けを喫することになる。ここへきてプレイヤーは悟るのだ。「運営、やってくれたな」と。


これはゲームをプレイし始めた人の殆どが罠にハマるであろう初見殺しだ。それまで「ハルウララ現実と違って割と1着取れるし楽勝じゃん」と油断していたプレイヤーの慢心を完膚なきまでに打ち砕いてくれる。しかも100%勝てない完全な負けイベントなら潔く諦めも付くが、長距離向きに育成すればおそらく勝てるかもしれないという一筋の希望が残っている点が余計にたちが悪い。
レース後に気丈に振る舞いつつもあふれる悔しさを堪えきれず大粒の涙をこぼすハルウララ。そんな姿を見ていると次の育成こそどうにか勝たせてあげたい、時間はかかってもいつか勝たせてあげたいという気持ちが自然と湧いてくる。ユーザー心理を巧みに突いてくるなんとも小憎たらしいシナリオだ。


ふたりめはサクラバクシンオーである。
彼女は短距離・逃げの適正を持つ天性のスプリンターであり、スピードを鍛えるだけでシナリオ最終目標である悲願のURA優勝をなんなく成し遂げてしまう。その圧倒的なスピードは文字通り他を寄せ付けない無類の強さを誇るのだ。シナリオを無事クリアしこれにて一件落着めでたしめでたし……かと思いきやそうはいかなかった。エンディング後、ほんの少しの罪悪感が俺自身を襲った。


実は彼女は出会った際に『短距離から長距離まで全てのG1制覇』という途方もない夢を語ってくる。しかしそんな目標を達成することはほぼ不可能、非現実的なファンタジーでありもっと彼女の才能を活かした育成をする必要がある。
そのためプレイヤーの分身である主人公は無垢な彼女をずっと騙し続けることでシナリオは進行していく。

騙すといってもギャグテイストなつくりなのでもう少し詳しく説明しよう。バクシンオーの短距離の圧倒的才気に惚れ込んだ主人公は「このレースに勝ったら長距離レースに出してやるぞ」とニンジンをぶら下げつつあの手この手で言いくるめ短距離レースに出場させる。彼女が「そろそろ長距離に出たい」と懇願すれば主人公は「1200mレースを3回走れば3600mだから長距離レースだぞ」と小学生でも分かる嘘をつく。んなアホな……と思いきや単純な彼女は口車にまんまと乗せられてしまう。こうしてバクシンオーは彼女自身の本来の望みとはやや噛み合わない形で短距離街道を邁進していくのだ。

そして、エンディングでサクラバクシンオーは主人公に語りかける。


「その他全てのレースに、私が勝てると……信じてますよねッ?」




心が痛てェ!

この台詞を初めて見た時、ハッキリ言って良心が痛んだ。
確かに結果だけみれば短距離で勝ち続け実績をしっかりと残しているし、ゲーム内パラメータも優秀でシナリオ的にもグッドエンディングを迎えている。なんの不都合もないハッピーエンドだ。しかしなんだ、釈然としない胸の中に残る後ろめたさは。そうだ、この感情の正体こそ彼女の全G1制覇という目標を知りつつ目を背けつづけた証だ。短距離で勝てればいいとごまかし彼女の夢を軽んじた罰だ。一番近くにいたのに一番信用しなかった。その結果憧れの勝利を手にしたのに肩を並べて素直に喜べない自分がいる。
屈託のない笑顔と曇りなき眼差しでこちらをまっすぐに見つめる彼女は誰よりも眩しい。「これまで騙して悪かった。悪気は無かったがどうしても勝たせたかった」と胸中を吐露したくなった。けれどそんな俺の想いも虚しくシナリオは終了してしまう。「これからもふたりで全G1を目指し続けるぞ」と夢を追い求める形で。
これじゃまるでプレイヤーに「この先の物語は君自身が紡ぎ出してくれ」と言わんばかりの終わり方だ。この結末の意味するところは彼女の本当の目標を叶えるのはこれからのプレイヤー次第であると端的に伝えているのだろう。

負け続けたウマ娘と勝ち続けたウマ娘。その存在は対極的だがどちらも読んだものを熱く引き込む物語であることは間違いない。ちなみにふたりとも星1ですぐガチャから出てくるので今すぐ読んでほしい。


ハルウララにとっての有馬、サクラバクシンオーにとっての長距離。彼女たちの夢はどちらも適正の無さによって阻まれた。これは残酷な事実である。しかしこの生まれ持った才能を唯一覆せる要素が存在する。それが因子である。

育成開始時にふたりのウマ娘を選ぶのだが、この際適正やスキルの一部を継承できる。育成中も二度継承する機会がありそこで苦手を克服していくのだ。いわば才能ガチャとも呼べる競馬ゲーらしい血統要素であり、まだ軽く触れた程度だが凝り出したらキリがないやり込み要素であることは容易に想像がつく。
他にもウマ娘自身の才能開花やサポートカードの限界突破など金と時間がいくらあっても足りねぇと思わせる要素の数々はいかにもサイゲのソシャゲらしい出来だ。



それにしてもなぜここまで本作のレースが難しいのか。答えは単純、分かりきっている。
ウマ娘を操作できないからだ。
コマンドを使って指示を出すこともボタン連打でダッシュを加速させることも出来ない。ただひたすら見守ることしかできない。それもそのはずプレイヤーはジョッキーではなくトレーナー。本作のレースはプレイヤーの操作の上手さを競う場ではなく、単純にこれまでの育成の成果が試される場なのである。
話だけ聞くとつまらなそうに感じるかもしれないが、これが思いのほか熱中してしまう。その理由は白熱するレース演出にある。

時折他のウマを横目で確認しながら少しでも早く速くと前のめりに駆ける姿は勇ましく。剥き出しの闘志は競り合いぶつかり合う体となって表れる。ウマ娘の顔がアップになった際にはカメラがブレることでより臨場感を燃え上がらせ、流暢な実況とダイナミックなカメラワークが高速のレース展開を追いかける。貪欲に最速を追い求め勝利の二文字に喰らい付く彼女達の鬼気迫る表情は普段の愛らしい姿からは想像も出来ぬギャップがあり思わず魅入ってしまう。
祈り託すしかない。この操作出来ないもどかしさこそ強い一体感を感じさせ勝利の喜びを何倍にも増幅させてくれるのだ。一度クリアしていればスキップ可能だがここぞというレースはついつい見てしまう。

さすがにこのランダム仕様のみだと厳しすぎるためかアイテムを使った有限のコンティニューは可能。スキルの発動によって結果がコロコロ変わるため同じレースでも10着かと思えば1着だったり割と運ゲーめいてはいるものの、この思い通りにいかない楽しさと辛さこそ本作の真骨頂と言えるだろう。操作できる新シナリオやアプデが将来的にくる可能性もあるが。




さて、ここから先は不満点を述べる。
まずサービス開始一週間足らずだというのに既に容量6ギガ越えであり下手な据え置きゲーよりも容量が大きい。プレイ中のバッテリー消費は激しくまだまだ動作は不安定で唐突なエラー・強制終了も頻発。こうした不具合はリリース当初の宿命とも言えるものの、容量が増える運命ばかりは避けられずリリース1周年時には10ギガ超えそうで今から不安が募る。

リリース記念の期間限定ミッションに『クレーンゲームでぬいぐるみを3個獲得』と『サポートカードに編成した5人と同時にトレーニング』という2つのミッションがあるが、そのどちらも発生がランダムで運が悪いと達成不可能。リリース記念というめでたい響きとは裏腹に運営の持つ底意地の悪さを感じてしまう作りとなっている。初心者応援ミッションは楽に達成できるものにしてくれ。

現在開催中の記念すべき初イベント「キミの夢へと走り出せ!」では大量のポイントを稼がねばならず、極めてストイックな周回数を要求される。初イベントとはいえ調整を間違えたとしか思えない極悪設定だ。一周に時間がかかることもあってこの必要周回数を律儀にこなすと早々に飽きて辞める可能性が高い。こちらのルーレットダービーも運が悪いといつまで経っても報酬を貰えないので早急に緩和してほしい。飽きとはゲームにおける最大の敵、義務感で遊ぶほどつまらないものは無いのだ。

最後にこれだけは触れておこう。実在の競走馬の名前を使用している点についてだ。
ウマ娘プロジェクトは過去にキャラの消失・声優の変更などが行われたのは周知の事実だが、馬主に無許可だったのが理由と推測されている。この件に関しては先走ったサイゲが悪いとしか言いようがない。いくらゲームとして面白かろうがそれとこれは別、既に味噌がついているのが残念だ。ダービースタリオンギャロップレーサーなど実際に訴訟に発展しておりデリケートな話題であることは分かっていただろうに。
さすがにまた同じ馬鹿な真似をするとは思えないが、そうした経緯があるだけに今後の公式での描き方やファンアート次第ではまた何か一悶着あるかもという一抹の不安は拭いきれない。
まぁいちユーザーに出来ることなど何もないので結局はいつも通り。必要以上に楽観視も不安視もすることなく遊ぼうと思う。


まとめ


もう一度言う。
今、ウマ娘が熱い!
まさかこれほどハマるとは思わなかった。ここまで熱中できる育成とレース、そしてシナリオ。現時点での満足度は非常に高い。まだ育成を終えてないウマ娘たちも多いが今から新キャラや新シナリオが楽しみだ。レースはまだ始まったばかり。長く長く夢を見続けさせてほしいものである。

すっかり忘れていたが、レース後に観られるウイニングライブの出来もずば抜けてクオリティが高い。なかでもURA優勝を果たすとそのご褒美として観られる『うまぴょい伝説』のライブはいくらクリア後だからってハメ外しすぎだろ!!!とゲラゲラ笑えるふざけた歌詞の電波ソングなので是非シナリオをクリアして一緒にハメを外してほしい。


おまけ


サクラバクシンオーが初めてURA決勝を制した時のレース映像。画質は粗いがその当時(リリース翌日、遥か昔。)の熱気が手に取るように伝わる名勝負だ。こうしたギリギリで競り合う演出が上手く機能しているからこそ育成にも熱が入る。運営、頼むから早くリプレイ保存機能付けてくれ。



以上、読んでいただきありがとうございました。