さぐりがき

据置ゲーの情熱を取り戻したい男のブログ

全てはあなたに委ねられた。報道の持つ魅力と魔力に取り憑かれながら一国の理想の社会を目指せ。『ヘッドライナー:ノヴィニュース』レビュー

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今回は『ヘッドライナー:ノヴィニュース』をレビューしよう。ジャンルはADVでUnbound Creationsが開発したインディーズゲーだ。ヘッドライナーシリーズの2作目にあたり、前作は未プレイだがおそらくシナリオは独立している。
膨大な選択肢を選ぶことになるが周回プレイを前提として作られており、ゲーム内時間はたったの14日で初見プレイ時にじっくり考えても一周2時間程度だったので二周目以降もサクサク遊ぶことができた。
目次

あらすじ

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舞台は近未来。原因不明の奇病が流行し社会不安が漂う架空の国『ノヴィスタン』
あなたはこの国唯一の新聞「ノヴィニュース」の製作に編集長として携わることになる。近未来ゆえ承認した記事は電子版としてすぐさま国中へ届けられる。国民の多くは遺伝子操作されたデザイナーズベビーとして生まれ、無人ドローンで食事の配達や犯罪を監視し取り締まるなど科学の発達した世の中だ。しかし原因不明の奇病に悩まされ疑心暗鬼に陥るものも多く、ノヴィスタン政府も遺伝子研究のパイオニアである隣国『レアリス』と軍事的政治的に緊張感ある状態が続いている。

スタンプを押すだけの仕事

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肝心なあなたの仕事はとってもカンタン。部下が書き上げた記事を承認するか却下するか⭕️❌スタンプを押して決めるだけ。『スタンプを押すだけの仕事』とだけ聞けば一見楽そうに思えるが言わずもがな情報の持つ力は強力で、その選択の持つ意味は極めて重く取り扱いには細心の注意を払わなければならない。それをあなたの一存で決めるというのだから「めんどくせーからボツ!」なんて出来るはずもない。全てはあなたの双肩に掛かっているのだ。

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本作では様々な社会問題に立ち会うことになる。
そのひとつがベターバッズと呼ばれるアルコール飲料だ。通常の酒より安価で手軽に酔える一方、一部の研究では健康被害が不安視されている。被害があるならさっさと規制しろと思うだろうがあろうことか販売会社は新聞社の重要なスポンサー、機嫌を損ねる記事を載せれば撤退されあなた自らも減給されてしまうかもしれない。世知辛い話だが生活のために事実にフタをするか、それでも報道人として危険性を訴えるのかが試される。

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時として二つの記事のうちひとつしか承認できない場合もあるのだかこれがまた悩ましい。この画像ではベターバッズを常飲している約6人に1人が中毒と伝える記事と中毒はわずか15%程度と伝える記事のふたつがあるが、見比べればどちらも全く同じ事実を伝えているのに180度異なる論調になっているのが分かるだろう。こうした現実の報道でもたびたび目にする数字のマジックをゲーム内で見た時は思わずおおぉ〜と唸らされた。私たちがいかに普段数字に信頼を置いているかの証でもある。ひとつの事実をどちらの真実に変えるのかは全てあなたの考え方次第だ。

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もちろんノヴィスタンを列強にすべく現政権を支持するのか諸外国と融和し開かれた国にしていくのかといった外交問題や、安価で医療を受けられる国民健康保険の導入の是非治安維持の強化など国民の生活に根差した問題も多い。殺人事件を報道するだけなら是非は問われないだろうと承認ばかりしていると、今度はあたかも外国人犯罪が増えた印象を与えてしまいノヴィスタン人の外国人に対する偏見が酷くなってしまった。
このようにプレイヤーは二律背反の現実を前にして常に悩み続けることになる。この選択の持つ難しさこそが本作の持つ醍醐味だ。

ひとつ注意点がある。ふたつの記事のどちらかを承認する際は左の記事が⚪︎ボタンで右の記事が×ボタンということはしっかり覚えておこう。一度決定したらその周回中は二度と覆せないので操作を間違えやる気がなくなった、なんてことがないように気をつけてほしい。

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仕事を終え自宅までの帰り道では市井の様々な反応が伺える。ベターバッズを支持すれば市民は皆常飲し道端にゲーゲー吐瀉する者が増えるし、国政を支持すれば過激派市民団体がプラカードを持ち外国人排斥のデモを行い自宅から見える広告も様変わりするなど自らの選択の持つ意味を目の当たりに出来るだろう。情報の持つ影響力とはそれだけ強大なのだ。

選んだ記事によって民衆はたやすく影響されるため最初は『こんな簡単に扇動される訳ないだろ何をバカなことやってんだ』と笑って見ていたが、周回プレイを進めるうちその事の深刻さと笑えない現実に気がついた。情報に踊らされ怒りに沸き立つ民衆の姿には誰しも覚えがあるだろう。そう、彼らは鏡写しの私たちそのものだ。

あなたを取り巻く登場人物たち

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こうした選択はあなたを取り巻く周囲の登場人物達にも関わってくる。本作では上司のボス以外にも売れっ子コメディアンを目指す主人公の兄ジャスティ、個人商店の店主ルディなど様々な人間が登場する。ちなみにキャラの立ち絵はなんら普通だが、3DモデルはPS1を思わせるカクカクポリゴンなことに少々笑ってしまった。
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その中でも一際目を引くのがプレイヤーと同じ新聞社に勤める記者のエヴィ。なんといってもかわいい洋ゲーめいた過剰なバタ臭さも無い受け入れやすいキャラデザなので遊んでみればあなたも十二分にかわいいと感じるだろう。こうしたキャラクターの見た目はゲームそのものに感情移入できるか否かの最初の入口であり、そのハードルを軽々と超えてきたのは嬉しい限り。
彼女は他国出身で見た目にも分かりやすい褐色肌のため差別的な目線で見られることもあるなか、慢性的な持病を持ちながらも偏見にめげず気丈に振る舞う姿がまた愛らしく、度重なる決断の癒しであることは間違いない。

余談だがゲーム冒頭で彼女が語る「遺伝子操作できる時代に国籍差別なんて皮肉」とは未来を予言するような台詞であり、差別はいつまで経っても無くならないと思わざるを得ない。こうした近未来SFモノとして楽しめるのも本作の特徴と言えるだろう。


国内の諸問題は複数の登場人物たちにまたがり影響を及ぼしてくる。その例が健康保険の国営化だ。
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現状では高額で一部の国民しか受けられない健康保険を国が運営し安価にすれば国民全員が健康な暮らしを享受でき幸せになれると思うかもしれない。しかし一方で国民健康保険の実現は病院や医師の不足、医療の質の低下と言った問題を孕んでおり安くすることが無条件で最適解という訳ではないのだ。
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不安神経症に苦しむ売れない芸人のジャスティンは保険料が下がればありがたいかもしれないが、持病を持ち高額な治療費を払っているエヴィにとっては病院の待ち時間が増え治療の質そのものが悪くなり処方される薬の量も減るかもしれない。実の兄を取るか、美人な同僚を取るか。う〜む悩ましい。
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他にもエヴィが暮らしやすくするため国民の偏見や差別を無くそうと他国との協力を報道で訴えれば、今度は個人商店を営むルディが外資の大手スーパーに経営を圧迫される羽目になる。ハゲたオッサン美人な同僚という意味では後者一択だが、ルディにはかわいらしい娘がおりその子の学費ローンの返済に苦しんでいる。こちらもなんとかしてやりたいがそういえばまた別の問題が…という具合にあちらを立てればこちらが立たず。どこまでも世の中は地続きで一朝一夕に片付く問題など存在しない。登場人物たちの運命が分かりやすく塗り替えられていく様は報道の持つ力をより身近に感じられることだろう。

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プレイヤーは編集長とはいえあくまで雇われ。荒唐無稽な記事を載せれば上司であるボスに叱責されるし、いかにも胡散臭い連中が近寄ってくる場合もある。あなたの選択で世界が動く様は時として空から力を奮う神のように感じるかもしれないが、あなたもこの国に暮らす一市民であることをゆめゆめ忘れないように。

引っかかった点

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少々引っかかった点がある。二周目開始時にだいぶ意味深でメタフィクション的な演出を見せられた点だ。

本作では二周目になるとキャラクターや選択肢、台詞のちょっとした追加が行われるのだが、その中でも一際強い印象を放つのが二周目冒頭のとあるキャラクターのメタ的な台詞だ。この演出を見せられたおかげで『一周目はプレイヤーの倫理観を試す道徳的教材として遊べるが、それだけだと息が詰まるため既知の二周目以降はトゥルーエンドのあるループものに変化した』と受けとめてしまった。

本作の性質上トゥルーエンドが存在しないのはほぼ分かっていたのだが、周回プレイ開始時にこうした気を持たせる演出を見せられたお陰でどうしても諦め切れず何周かトゥルーエンドを探してしまった。 つまるところメタ的な台詞にゲーム的な意味を見出してしまい演出以上のものを期待してしまったのだ。メタネタ自体に不快感は無く単純に昨今のループものの興隆に毒されていただけかもしれないとはいえ、見当違いな期待をしたせいか二周目以降も些細な変化だけと分かった時は少々肩透かしを食らった気がする。スキップ機能は存在せずバックログが見返せないのもADVとしての利便性に欠けている。

ちょっとしたお遊び的要素で含まれたメタネタとはいえ、わずか数行のテキストで大きく印象を左右させられたという意味では報道にも通じる部分があったように思う。もし続編が出るなら値段が高くなっても構わないので更なるボリュームアップと演出の強化を図ってほしいところだ。

まとめ

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一周目のプレイ開始時は「何があろうと国民に真実を伝えるぜ!」と息巻いていたものの気付けばあっちへフラフラ、こっちへフラフラと判断能力が完全に消滅した泥酔者の如く定まらない判断を続けただけで、主義主張など何もない情報に振り回されるだけのプレイに終始してしまった。自らの道徳心や倫理観を試され右往左往するのは楽しかったが、同時に頼りなさも痛感した。
選択肢の持つ意味と結末を充分理解し周回プレイを始めると、今度は一周目と異なり狙い通りの展開を描く喜びを覚えた。多くの展開にトロフィーが紐づけられているため新たな展開を見る以上の楽しみが増えたし、報道で誰かを救う魅力にはやみつきになるものがあった。

しかしここであることに気付き若干の寒気を覚えた。いくら選択肢の結末を知っているゲームとはいえ当初の理念とは全く異なる「思い通りの絵図を描く」ために報道を利用していることに戦慄したのだ。これこそ報道の持つ魔力に取り憑かれた、というべきなのかもしれない。

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本作に正解はないがただひとつ分かったことがある。報道とは単に事実を伝える慈善事業ではなく、事実を加工するビジネスだということだ。作中でボスが語るように会社としての一貫性が求められる。それは例えるなら親鳥が雛鳥に咀嚼してエサを与えるように事実を容易に噛み砕き、時として全くの別物のように姿を変えるのかもしれない。しかしそれこそが人が人に事実を使える報道そのものなのだと強く実感できたように思う。

テーマである世論を操作するという題材だけ聞くと重苦しく若干の説教臭さを覚えるかもしれないが、遊んでみればしっかりと娯楽として昇華されているし誰にとっても分かりやすい作りで価格以上に楽しめることだろう。本作をプレイすることでたまには報道する側から社会を見渡してみるのはいかがだろうか。
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以上、読んで頂きありがとうございました。