さぐりがき

据置ゲーの情熱を取り戻したい男のブログ

僕らの青春は鈍色に輝く 『十三機兵防衛圏』 レビュー

ネタバレ無しです。トロコン済み。クリア時間は27時間39分でした。


まえがき

ヴァニラウェア新作。本作のジャンルはADV +RTS。ぼくはvitaで朧村正ドラゴンズクラウンも途中で積んでしまったのでどうなるか。個人的に2Dベルトスクロールアクションってどうも馴染みが薄くって、その圧倒的なドット絵に惹かれつつもどこか縁の薄さを感じていた開発会社であります。

ぼくは元vita民なので2015年あたりから地味に期待してましたが待てど暮らせど発売されず。vita版が開発中止になったりとすったもんだがありましてようやく発売となりました。



体験版の印象

体験版を遊んだ感想を言っちゃうと、正直どこか懐疑的でした。確かにグラフィックは綺麗で雰囲気はあるんだけど慣れる綺麗さに感じてしまったというか、見た目ガンパレ風味の戦闘やこのご時世にADVで9千円近くのフルプライスという強気なお値段だったため貧乏性のぼくは二の足踏んで後回し。爆乳保険医とか女装男子は性癖に刺さる要素だったので多少は気になってました。



戦闘画面は俯瞰で描かれるスケールある物量戦といった印象でしたが、 自重で潰れそうなほどゴツゴツした機兵のデザインがワクワクするだけに個人的にはどうせなら巨大ロボそのものを全面に押し出した戦闘画面のほうがよかったな〜なんて思ってましたね。ミサイルで雑魚敵を一掃するのは楽しかったですけど。


そんなことをちらほら感じていたら、風の噂でなんだかすごく高評価らしいと聞いて年末に駆け込みで購入、このたびようやくクリアしました。



結論から言うとゲームでしか味わえないシナリオ演出が味わえました。
もし体験版を遊んでなんかイマイチかもな〜なんて思った人、是非遊んでみることをオススメします。

前置きが長くなりました。それではレビューしていきますいざゆかんロボと青春焼きそばパン!

目次

あらすじと概要

あらすじ



13人の少年少女は集う。機兵で世界を救うために。



ゲーム概要

本作はシナリオパートの追想編・バトルパートの崩壊編・用語やシーンが確認できる究明編の3つで構成されています。
どれも独立した作りで構成されており、シナリオを読んでいる最中に強制的に戦闘させられるなんてことはありません。思う存分物語や戦闘にのめり込めます。

戦闘


戦闘はステージ制のRTS。13人のうち最大6人を選んで出撃します。ターミナルと呼ばれる拠点を守りましょう。

難易度選択は3段階、コマンド選択時は時間が止まる安心設計で誰でもとっつきやすく遊べます。


この戦闘、なによりテンポが良い。目を見張るほどの大量の雑魚敵の掃討が目的になりますが、基本ターミナルに向かって進行してくるので逃げ回る敵をいちいち追いかけ回す必要はないですし、味方の攻撃方法は範囲攻撃がメインなので大勢を相手にするのも苦ではありません。
味方を6人も操作すると聞くとめんどくさいと思われがちですが、攻撃後のウェイトタイムは短めで他の味方を操作するうちにまたすぐ出番が回ってくるスピーディーなつくり。常に誰かを動かし続けるので体感時間は短めです。


効果音や演出も凝ってます。単体攻撃のパンチはドゴォンって重みのある音ですし、大型ミサイルを放てばドッパァーーンと着弾地点に派手に花火が咲き誇る。ダメージ数値をただの数字ではなく視覚上の演出とした魅せ方が◎。

蒸気沸きオイル滴る重みのある機兵のデザインから想像するじっくり長考する戦闘とは裏腹な、軽快さと派手さを併せもったストレスフリーなバトルです。

難易度的にはそれほど難しくはありません。シナリオクリアまでの戦闘を難易度ノーマルで遊びましたがほぼ初見Sランク余裕でした。


しかし、その難易度の軽さゆえ歯ごたえの無さを感じてどこか作業感を感じてしまうこともしばしば。マップに遮蔽物などのギミックはありませんし、全ての敵が見えているので索敵する必要もなし。飛んでくるミサイルを撃ち落とせるくらいで基本平面上の戦いがメイン。

ステージが進んでも敵の数や硬さといった形での難易度上昇が基本なこともあいまって、物量戦というか殲滅戦を連続して強いられるのはやや一本調子かも。最終盤のステージはさすがにちょいと苦戦しました。

大量の敵が襲ってくるので数には数で対抗しようと、多数の小型ドローンを飛ばすインターセプターと呼ばれる兵装を限界まで使うと処理落ちモッサリになるのは残念。

こだわりの演出で作られた本作の戦闘は遊びやすいのですが、もう少しギミックというか変化がほしかったかも。あくまで後述するシナリオ演出を補完するフレーバー的な意味合いが強いと感じました。


ADV




なんと13人全員が主人公!

特撮オタクにナンパ男、三つ編みおさげに包帯女、番長スケバンメガネ美男子などなど豪華声優陣がフルボイスで演じる個性豊かな主人公たちはどれもキャラが立っており、それぞれの目的も明確で分かりやすい。きっと誰かひとりは好きなキャラが見つかるハズ。
 

クラウドシンクと呼ばれる頭の中のキーワードを可視化したシステムは見た目にも分かりやすい。
13人もの物語を同時並行して遊ぶのは一見大変そうですが、台詞のセンテンスが短くポンポン進められるのもテンポ感に一役買っています。



追想編では謎に満ちたSF青春群像劇が描かれます。
皆微細に変化する表情や仕草は可愛く見ているだけでも飽きません。なんと歩くモーションひとつとっても全員バラバラ。胸を張って歩くキャラもいればポケットに手を突っ込んで足早に歩く者もいたり、歩き方ひとつにもその性格が表れている細やかなつくり。ヴァニラウェアお得意のドット絵で描かれた美味しそうな食べ物もかかさず登場するなど職人芸が光ります。特に何度も登場する焼きそばパンは本作を象徴するアイテムです。




青春群像劇らしく恋愛要素が強めの物語が展開します。食パン咥えてぶつかったりタンデムしたりとお決まりのシーンがてんこもり。13人全員を操作するためそれぞれの内面描写が丁寧で分かりやすいのもポイントですね。



明るく爽やかな展開ばかりではなく、ときにはドロドロした展開も待ち受けていたり…。いやはや男女の仲はそう簡単には割り切れないもんです。13だけに。(素数だから。うまいこと言った。)



全編に渡り奥行きある2D画面が美麗かつ柔らかなドット絵で彩られます。慣れるなんてとんでもない。陽の光まで緻密に表現された背景が鮮やかです。


本作を本作たらしめるSF要素は機兵だけではありません。時系列はバラバラで過去・現在・未来と時空を飛び越え様々な年代が描かれます。とある主人公をプレイすると、そこにまた異なる主人公が登場しついつい別の主人公でもプレイしたくなる辞めどきが分からなくなる作り。気がつくと謎が謎を引き連れた壮大な展開が待ち受けます。点である謎がいくつも散りばめられ線となり、登場人物たちの複雑な絡み合いや時空の交錯によって複数の線は多層的・立体的な構成へと姿を変えます。
この厚みと質量を持った物語構造が凄まじい!
遊べば遊ぶほど湧き出る謎の演出にぐわんぐわん脳がシェイクされる感覚がクセになる。ぼくは序盤から登場人物をころころ自由に選びつつ、各進行度がちょうど同じくらいになるようにザッピングしながら遊んだのですがこの振り回される感覚そのものを楽しんでました。個人的にこういうんおぉ〜〜〜〜ってなる感じ結構好きなんです。


さすがに完全に自由に読み進められるわけではなく、ある程度の進行度まで進むとロックがかかります。なのでザッピングして遊ぶことを推奨です。新しく遊ぶ人には是非頭の中ゴチャゴチャになってもらいたい。


そもそも登場人物13人のうち誰をどの順番で遊んでも物語が破綻しないって驚異的ですよ。

好きな順番で遊べるということは「とある登場人物の視点では謎だが、他の登場人物ではその種明かし」といった場合に、意図せずネタバラシのほうを先に見てしまうこともままあるわけです。しかし謎の量が膨大なため演出が多少前後したところでその面白さは揺るぎません。それどころか逆に「俺それ知ってるぜへっへっへっ」とどこか優越感に似た感情を持って演出を見ることができたのが自分で遊んでてなんだかおかしかったです。こうした構造的な耐久性に優れているのも本作のポイントかと思います。




物語後半に彼らの運命や世界の謎がどんどん加速度的に暴かれるさまは圧巻。
特に全ての謎がまるっと綺麗に収まる大団円のEDは必見。
これまで積み重ねてきたパズルのピースがパチリパチリと嵌め込まれ巨大な一枚絵に形を変えるのは見事としか言いようがない。そのくらい綺麗にピタッと物語が収まります。


これマジでどうやって作ったの?って開発者に聞きたいくらい。割とマジでアタマがこんがらがります。プレイ時間の割にクリアまでやたら日数がかかったのは僕のヤワな頭では2時間以上続けてプレイできなかったから。ホントは年末の休みに一気に遊ぶ予定だったんですけどね。まあかえってジワジワ謎に迫る感覚で遊ぶのも面白かったので良かったかな。




用語解説やもう一度気になるシーンを見返したい時は究明編でいつでも確認可能。フローチャートや早送りなど快適性にも優れ、痒いところに手が届くのはありがたい。このモードのおかげで消化不良を感じることもなくスッキリできました。



まとめ

ネタバレが致命的なゲームなのでとにかく体験版を遊んでほしいとしか言えませんが、僕自身プロローグまでしかプレイできない体験版を遊んでもそこまで響かなかったので薦め方が難しいですね。とにかくEDまで遊んでから初めて分かるタイプの面白さだと思います。ネットの評判吟味する暇があったらさっさと買って遊んだほうが早いっすよ。YouTubeのオススメ動画などで不意にネタバレ食らう恐れもありますし。なんなら公式サイトすら見ないでいいくらい。


www.google.com


こちらは本作のインタビュー記事です。ラストシーンありきで制作されたという本作はその開発年数にも納得の出来映え。
自分で13人ものキャラクターを動かし物語を読み進め世界の本質に迫る面白さが味わえるのは本作だけです。ガツンとドデカい爆弾が仕掛けてあるというより、積み重ねの演出が圧倒的なシナリオといっていいでしょう。
インタビューで触れられている通り、物語が綺麗に完結するゆえに続編は期待できません。なのでファンディスクなどに期待したい。


新たに遊ぶ人にはこの世界の謎に思う存分振り回されてもらいたい。どうか物語の構造そのものを楽しんでみては。




読んで頂きありがとうございました。